+徒然小説+

□First(おお振り)
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今日・・・だったよな。
オレは教室の隅のカレンダーを眺める。間違いない。

「三橋の好きなものって何だ?」

唐突に、聞いてみる。


「オ、オレの好きな・・・の?」
ああ、お前の好きなのだよ。
今日誕生日なのはとっくに調べ済。データ集めに関してはキャッチャーの十八番だぜ。
ここで三橋が「オレの一番は阿部くんだよ」とか言ってくれると・・・・。
ってオレ!何考えてる?
この間の三星戦の時に勢いよく「スキ」宣言をしてから、何だかヘンに三橋の事意識しまくりだ。
イライラしてつっけんどんになったり、三橋に事あるたびに話しかけてみたり。
これが・・・なのか?


「う、オレ、いっぱい・・・」


な、に?




・・・そりゃー叶とかの方が長く一緒に居ただろうし、従姉妹のルリちゃんも可愛いって噂だし。・・・栄口とはずいぶん気があってるみたいだし、田島は天然仲間だ。いやここは大穴面倒見のいい花井か?


くっそー、そんなに沢山居るのかよ、三橋っ!!

「その中で一番好きなのは・・・?」
ごくりと唾を飲み込む音がやたら大きく聞こえる。
「み、みんな好きだから決めるの難しい・・・」
三橋は本当に困ってるみたいだ。もじもじと人差し指を弄くってる。
困った時の癖。もう何度見ただろう、知らず知らずのうちに覚えて。
これって・・・やっぱり。
オレって三橋のこと、好きなんだよなあ。多分。
色恋沙汰にはてんで疎いから、よくわかんねえけど。
「あ、あ、阿部君!」
名前を呼ばれたことに思わずドキッとして、勢いよく椅子から立ち上がってしまった。
三橋の事で頭いっぱいになっていた自分が恥ずかしくて、更に頭に血が集まる。
今三橋の「一番」を聞いていたんだよな。
オレの名前を呼んでくれたのは、オレが・・・って事か?
本当か、三橋。その言葉に偽りなし、だな??男に二言はねえぜ。
がしっと三橋の肩を掴むと、三橋は「ふえっ?!」と抜けた声を出した。
「オ、オ、オレ・・・好きな物は色々あるけど・・・。肉まんとか、ケーキとそれから・・・」


オレは肉マンと同じ扱いか?!
・・・・・がっくり。


ちくしょう、オレがただ一人で勘違いして舞い上がって居ただけか。
思わず三橋を揺さぶると、わわわっと声がして三橋の色素の薄い柔らかそうな髪が揺れる。
オレはそんなとこまで見てるんだ。ひとつひとつの動作に目を配ってしまう。
・・・なのになんでオレは肉まんと同等扱いなんだよ!
「で、でもね阿部君」
話しかけられて思わず手をぱっと離すと、三橋は襟をぎゅっと掴んで上目遣いにオレを見る。
「オレは、今一番・・・野球がスキだよ」
頬を染めて笑う三橋に、オレは視線を逸らせない。
「も、もちろん今までだって・・・スキだった、けど。スキじゃ、なかったら続けてないけどっ」
はあ、と三橋は深呼吸して。
「阿部君と野球できるから、今一番野球・・・スキなんだ」
「・・・オレと、だから?」
「うん。阿部君・・・だから」
その言葉に後押しされて、オレはぐっと三橋の腕を引いた。
「よし!これからキャッチボールでもするか」
その言葉に明らかに慌てる三橋。
「え?!でももう暗くなってきたよ」
「でも、スキなんだろう?オレと野球するの」
そう言うと、戸惑っていた三橋の目が輝いた。
「うん!スキだよ」
「・・・帰り、メシ食ってこうぜ。今日誕生日なんだろ?スキなケーキもつけてやるよ」
「そうか!オ、オレ誕生日か・・・!!特に何時も何もしないから忘れてた」


慌てて携帯を取り出し、母親にメールを打つ三橋を横目で見る。
野球とオレが同等だってんなら、悪くない。
何があってもずっと続けてきた野球とオレが三橋の同じ位置を占めるのなら。
オレだって三橋とだから昔よりもっと野球が好きになったんだ。




そしてオレと三橋を巡り合わせた「一番」大切なもの。
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