+徒然小説+

□一線の光(おお振り)
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最近また眠れない。
目閉じると、闇がオレを包んで。
布団に入っていても、あったまらない。まるでその闇に体温を奪われて行く様で。
闇が嫌いなのに、何故かオレは振り払えない。
誰か。
誰か。
誰か。







「ほら!三橋。ボタン互い違いに掛けちゃってるぞ」
「うおっ?!」
阿部君はしょうがないなとオレのボタンを外し始めた。
何時も目線は上だったのに、今日は下だ。
阿部君の目が伏せ目がちに見える。いつもの違う、角度。
「出来たぞ。全くまた何か考え事してたのか?しっかりしろよ」
阿部君はそう言って、ぽんと肩を叩いて笑った。
あまりにも三星にいた時と取り巻く空気が違う。
まるでさっきの掛け違えたボタンみたいに。
その空気はとっても心地良くって、嬉しいけどどうしていいのか分からなくなる。
「あ、阿部君!」



教えて、欲しい。



「あ?どうした三橋」
「オ、オ、オ、レ!どうしたらいい?」



ここに・・・みんなと一緒に居られる為には、どうしたらいいの?



「オ、オレ。オレ皆と野球がしたい。このチームの為に一生懸命投げたい・・・っ」



今まで、一人だと思ってた。
バッテリーを組んでも、一人で投げてた。
サインもなく一人で悩んで、戦って、敗れて、泣いて。
だから「誰か」の為になんて・・・考えた事なかった。



そう言うと、阿部君は。
「じゃあ・・・リクエストしていいか?三橋」
「う、うん!」
オレで出来る事なら・・・何でもするよ、阿部君。
ふわっと両方の目じりに暖かい感触。阿部君の指がオレの目じりを抑えていた。



「笑って、くれよ」



「ふえっ??」
「こんなに目を痙攣させないでさ。力を抜いて、息を吐いて」
「・・・うん」
「お前が笑うと、皆安心するぜ。お前はコントロールのいい、エースピッチャーなんだから。笑って、皆に声をかけてみろよ」
「あ、阿部君も・・??阿部君も、オレが笑うと・・・そう思う?」
そう言うと、阿部君は一瞬目を見開いて。

あ・・・・・。

「・・・・・オレはお前の笑顔、欲しい・・・・」
うわ・・・阿部君っ。
阿部君のいつもと少し違う笑顔に、オレの心臓が苦しくなる。
「阿部君がそういうなら・・・っ」
阿部君が望むなら。欲しいといってくれるのなら。
一緒に居ていいのなら。
「エヘ・・・」
嬉しい。必要とされるのが、自分の居場所があるのがこんなにも。
有難う、阿部君。
「・・・良く出来ました」
阿部君はそう言って、オレの額にごつんと自分のそれをくっ付けて笑った。
阿部君の背から差し込むライトが眩しくて、思わず自然と目を閉じる。



目を閉じても、感じる光。
夜の闇が嫌いな事が、やっと理解できた。
オレのココロの色にそっくりだから。
とても朝の光が遠く感じて、闇に飲まれてしまいそうで。
額から、目の前から阿部君の温もりが伝わってくる。
暖かい。気持ちがいい。
その光がだんだん近づいて、闇を振り払ってその姿をはっきりと映していく。









オレの心に、朝が来た。
阿部君という、暖かく強く照らしてくれる光によって。
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