+徒然小説+

□決戦の日(おお振り)
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朝の光がカーテンから差し込む。階下から母さんの声。
いつも通りの朝だけど、今日は何だかいい予感がする。
うん、今日は頑張るよ!
オレは意気揚々とカーテンを開け放った。







着替えて、階下に降りて、顔を洗って。
母さんの作ってくれた朝ご飯。もくもく食べながらテレビを見る。


・・・・・!やっぱり今日だよ!!
今日こそは、オレから阿部君にっ!


深呼吸して、いつもより大きい声で。
「母さん、行ってきます!」
母さんはちょっとびっくりした顔したけど、嬉しそうに返してくれた。







今日は何時もと違う時間。
オレはいっつもギリギリで・・・時には母さんに送ってもらったりするけど、阿部君は早いんだ。
朝なら、きっと言えるよ。帰りはみんなが一緒だけど、朝はバラバラだし、一般の生徒は未だうちにいる時間だもん。



いた・・・・・。
大分日が出るのが早くなったから、その姿を思ってたより早く見つけられたみたい。



うう・・・・。言いづらいよ。でもっ!



「お、お、おはよう!阿部くんっ」
阿部君はオレの姿を見て、目を丸くしていた。
「うっす。今日は早いんだな・・・三橋」
「うん!」
だって、今日はいい日。
だから、今日は言えるはずだもん!
日が強くなってきて、オレの方に振り返った阿部君の背から差し込んできた。





「あ、あ、あのね」
ん?と逆光に照らされながら阿部君が笑う。
阿部君が眩しくて、つい言葉を引っ込めそうになる。
ダメダメ、今言わなきゃ。
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・・・。
ううう・・・今日は大丈夫なはずなのに〜!
「どうした三橋?行くぞ」
・・・やっぱりオレって、こんなとこまでダメピーなのかなあ。





どうにか歩幅の広い阿部君の隣に着く。
最近ここはオレの定位置だ。阿部君の左側。



それだけでも嬉しい。けどもっと近くにいたいんだ。
今日はオレから、近づきたい。
のに。
なのに〜〜〜!
情けなくなって、思わず下を見ると。
長い影。
阿部くんのちょっと後ろに立って、陰を見つめる。
オレのより長くて、肩幅もしっかりあって。足も長くて。
それで頭も良くって、面倒見も良くて・・・やっぱり、阿部君・・・すごい。



やっぱり、オレ、並べないよ・・・。
悲しくなって、影を見る。
せめて、これくらいは、いいよね。
そっと自分の手を伸ばして、阿部君の影の手に重ねる。
オレ、早く阿部君の隣に並べる様に頑張るよ。
すごい阿部君とバッテリーしてるんだってみんなに言える様に。体もココロも強くなりたい。



でも、未だダメピーだから。
こうして、阿部くんの強さを分けて。
一緒にいさせて。






不意に阿部君が後ろを振り返った。
「おい、何してんだ!?お前が早く横に来るかと思って待ってたのに・・・朝練間にあわねえぞ!」




「うおっ?!」
オレは、行き所を無くした手を、バタバタさせて。
「何やってんだ三橋?しょうがないな・・・」
阿部君はオレに駆け寄って。
バタバタ泳いでいたオレの手を掴んだ。
影ではなくて暖かい本物の手で。







「手を、繋いでください」
結果的にはオーライ。
オレの手はしっかりと阿部君に握られている。



でも未だ引っ張られないと駄目なんだ。



早く阿部君と並べる様になって、オレからちゃんと言いたい。






朝の占いでは総合運一番で、「相手は貴方からのアプローチを待っています」って出てた。
でも結局、それって自分で頑張ったというよりも、占いに後押しされているんだよね。
今度は自信をつけて、オレから伝えたいんだ。
何時も受け身じゃなくて、オレから。
そのためにも、今は兎に角頑張る!阿部くんと最高のバッテリーになる為に!!
「よしっ・・・!阿部君待って!」
何時かは追いついて見せるよ。そして並んで歩くんだ。






そんな一途な三橋を見て(!?)、阿部が「今日こそ告ってやる」と内心を固めていたのを三橋は知るよしもない。
しかし今日の阿部の運勢は12位で、結局占いに従って告白を断念したのだった。
三橋にまだ、先制攻撃のチャンスは残されているかも知れない。
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