+徒然小説+

□予期せぬ温もり(幻水3)
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「うにゅ・・・お休み・・・なさ・・・」
声をかけられてヒューゴの顔を覗くと、既にサックスブルーの瞳が閉じられていた。
とくとくと聞こえてきそうな心臓の音。
その心地よいリズムにゲドもまどろみかける。
この方が良い。いつもは寝つきが悪いのでどうなるかと思ったが・・・何とか乗り切れる。思わず手を伸ばしそうになる衝動を辛うじて抑え込む。
守って、そして・・・傍にいてやりたい。
あの時と同じ・・・いや違う感情でこいつを守りたいと思っている。
すべてが・・・そう自分たちの宿星の定めの道の果てに到達したら。
ずっと一緒に居られるのだから。
それが唯一この呪われた紋章に感謝できる事だろう。
やり切れない思いに引きずられる様に、金色の髪に隠された額にそっと顔を寄せた。
ふと我に返り体を離そうとしたが、刹那ヒューゴの体が圧し掛かってくる。
「ヒュ・・・」
だが、ヒューゴはしっかりとゲドの腰あたりに手を回し、ぴたっと体を寄せてきた。
「んん・・・あったかい・・・」
細身の少年の意外な力に驚きながら、ゲドは苦笑いをした。
そうか、こういうことか。あの丸めた毛布の意味は。
ルシアにもそうしていたのだろう。すっかりゲドは抱き枕状態になってしまっていた。
その伝わる暖かさに、再びゲドにもまどろみが訪れる。
もう眠りに覆われている意識だから大丈夫だろう、これくらいは。
ゲドはヒューゴの頭を引き寄せて、目を閉じた。





ゲドが翌朝目覚めた時、既にヒューゴの姿はなかった。
既に食事に行ってしまったのだろう。
ゲドも取り合えず顔を洗い、はっきりしない意識を引き摺りつつ食堂に赴く。
「ゲド。今日は遅かったな」
声に振り向き視線を定めると、そこには不敵な笑いを浮かべたルシアが立っていた。
「ああ・・・」
「どうだ、1つ賭けに乗らないか?」
その言葉にゲドは不審な目をルシアに向けた。
「・・・なんだ」
ルシアはにっと笑って小指を立てる。
「ヒューゴに恋人が出来たかどうか」
不意打ちを食らったゲドはもう少しで段差を踏み外しそうになる。
辛うじて平衡感覚を保ちつつ、ポ−カーフェイスを装う。
「何故、そう思った」
「だってあの子はずっと一人じゃ寝られないって駄々捏ねてたのさ・・・ここ数日。もう大人なんだから一人でちゃんと寝られるって言ったら」
「・・・言ったら?」
「今日の早朝に毛布を抱え自室に向かって歩いていたヒューゴと出くわした。そしたら・・・」



『ヒューゴ、どうしたの?さては眠れないから母さんの部屋に行ったのね。残念でした〜もう起きたわよ』
『ううん、違うよ』
『ん?じゃあどうしたの』
『だって、俺はもう大人だもん』
『・・・?』
『だから、夜好きな人の所に行ったんだ。そしたら一緒に寝てくれたよ。好きな人と寝るのって気持ちいいね』
『・・・・・!!』
『大人だからいいんだよね、母さん。えへへ、やっと成功したんだ〜♪』



「・・・・・・・・(滝汗)」
「という訳だったのよ。どう思う?あんたは」
「・・・・・・・意味が解って言っているのか、あいつは」
ボソッと呟き、眉間にしわを寄せながら猛烈な勢いで食堂へ突進するゲド。
「あ!ちょっと・・・ゲドにこんな話題振るのが間違ったか?ゲドは興味無さそうだしな・・・恋愛話」
やれやれとルシアは首を振り、話に乗りそうな人物を再度物色し始めた。






その頃ゲドはトレイを凝視しながら、どうヒューゴをかわそうか思案に暮れていた。
「今の話は聞くべきではなかったな。今度来たら・・・」
スプーンを片手にぶつぶつと珍しく饒舌な(!?)彼を面白そうに見つめる影ひとつ。
「珍しい人からネタが入りそうです・・・張り込みしましょっか」
そういって、アーサーはずり落ちた眼鏡を押し上げた。

暫くゲドにとって眠れない日々が続きそうである。
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