+徒然小説+

□合い言葉(おお振り)
2ページ/3ページ

・・マジかよ。でもこの間の三星との試合の時、最初から笑顔で三橋に挨拶してきたのはあいつだけだったな。三橋が戻らないってはっきり言った時、寂しそうに眉を顰めていたっけ。普通自分だってレギュラーで出たいだろうから、三橋はライバルのはず。奴だってエースになりたかった筈だ。
こりゃ本物だな。
くそっ、なんかイライラしてきた。
何で俺がイライラしなくちゃならないんだ。
「いいか!廉」
「ハッ、ハイイッ!!」
三橋の顎をぐっと掴んで、視線をピッタリ合わせる。
「俺のは怒ってるわけじゃない。ただ、お前の・・・もっと近くに居たいから。ずっとお前と野球やって行きたいから!決めたんだ、ずっと」
そこで俺は言葉を飲み込んだ。
----そう、あの無防備な寝顔を見てから。
『信頼されるって、いいもんでしょ』
こいつになら俺のすべてを賭けて、ずっと『バッテリー』が組めると思ったから。
俺と三橋を繋ぐ『バッテリー』という絆を。
さっきイライラした原因に気がついた。俺もこいつが好きなんだ。
三星の試合の時には夢中で言ったけど、今その想いは更に強く自分の中にある事を自覚した。
自分の想いに焦って、更に照れくさくて。
気づかれないように俺はまくし立てた。
「だから!名前は合い言葉みたいなもんだよ。名字より相手が近くなったような気がするぜ。お前も呼んでみろよ、俺の名前」
「ふぇ・・・?」
「知らないわけじゃないんだろ?いいから呼んでみろって」
三橋は俯いて、行き場のない手をぐっと握り締めて。
「・・・や、・・・くん」
「聞こえね−な」
三橋は頭を2・3回振ると、ゆっくりと顔を上げる。
色の白い頬を真っ赤に染めて、少し上目遣いに俺を見て。
「・・・・・・隆也、君」
言い終えて三橋は大きく息を吐いた。頬を上気させたまま、肩を使って息をしてる。
このシチュエーションって。
気づいて俺はくくっと笑ってしまった。
さっき聞いた叶と同じシチュだぜ。
全く、俺もそれだけでこんなに嬉しくなるなんて。
「いいか、廉。これは二人だけの『合い言葉』だ。二人の時は今度からそう呼べよ。他の奴には呼ばせるな。俺達だけの、だぜ」
「・・・は、はい」
そこで俺は意地悪く。
「・・・俺が『合い言葉』言った時に返さなかったら、俺は返事しねえからな」
「・・・ええッ?!」
俺は三橋に背を向けて、2・3歩歩き出す。
振り向いて、三橋を見て。
「ほら置いて行くぜ、廉」
赤い顔の三橋が、慌てて俺の方へ駆けて来る。
「待って・・・た、隆也・・・くん」
今度叶に会う時があったら、真っ先に俺たちの合い言葉を聞かせてやる。
三橋の名前は俺のもの。俺にしか呼べないんだぜ。
そう、誰も知らない・・・俺達だけのサインだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ