+徒然小説+

□陽炎(魔人学園)
2ページ/5ページ

二人で下校の途につく。 
気温は蒸し暑く、ゆらゆらと蜃気楼が行く先々のアスファルトに揺らめく。
その道を夕日が照らして、更に暑さを感じて。 
俺は目眩を感じて、京一の方にぐらりとよろめいた。
とんっと肩に触れた感触も気持ちがいい。京一の気を感じて。
「あ、ごめん・・・」 
俯いたままの俺の肩を、京一がそっと引き寄せた。
そのまま道の真ん中で抱きすくめられる。
「京…ッ。何こんな所で・・・」 
言い掛けて、俺は思わず息を呑んだ。
身を硬くし、音を立てない様にするがそれは変わらない。
俺達以外に音が無い。こんな往来の真ん中でそんな事はないはずだ。
聞こえてくるのは俺と京一の息遣いだけ。それと京一の心臓の音。
そんな俺の雰囲気を察したのか、京一は俺の髪に顔を埋めて囁いた。

「ひーちゃん…好きだぜ」

そんな。京一はこの状況を何とも思わないのか?
「京一…お前ナントも思わないのか?」
思わず口をついた言葉に、京一は不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。
「龍麻、なに言ってるんだよ」
そうして軽く耳朶を噛まれ、俺は思わず身を竦めた。
「何って…お前は何とも思わないのか」
そう言い募る俺を、京一は不思議そうに見つめた。

「だって、お前が望んだんじゃないか」
…俺が?望んだ…??
確かに、常に京一の傍に在りたいと願った。
けど。
京一は目を閉じた。とてつもない事をしたんだろうか。俺は…。
「ここは、違う」 
そう、確かに俺は望んだ世界かもしれない。
でも…。
「違うよ…」 
呟いた俺を見て、京一の目が初めて笑った。
そう、こんな我が侭が許されるはずも無い。
俺の気持ちのまま、都合のままに動く世界など。
「俺は、皆が好きだよ。だからこの世界も守りたいと思った。それなのに」
こんなのは嘘だ。これじゃただの偽善じゃないか。
「俺って…本当に自分の事しか考えていないんだな。
こんな俺がリーダーじゃ、皆ももう嫌になったんじゃないか」
そう呟いた途端、右頬に軽い痛みを覚えた。
「ばか。お前だから…皆ついてきたんだろう。もしお前が現れなかったら、今の俺達はなかった」
そしてそっと…俺の手を握り締めた。
「俺とお前が出会う事も無かった」
「そんなの・・・」 
俺が口を開く前に、京一が照れ笑いを浮かべて口を動かす。
「俺だって嫌だぜ、ひーちゃん」
その言葉に、俺は思わず京一の背にしがみ付いた。
その言葉がどんな意味であってもいい。

ただただ、嬉しくて仕方が無かった。
こんな自分を京一が受け入れてくれた事を。

「だからさ」 京一は続けて言う。

「 戻 っ て 、 こ い よ 」

その声が俺に浸透していく。
ゆらゆらと蜃気楼の様な感覚に捕われて。
俺の意識はゆっくりと飲み込まれた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ