+徒然小説+

□陽炎(魔人学園)
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「全く侮れないセンセだよな」
ぼそっと呟いた京一。
何を思い出したのか、顔を赤くしている。
「どうしたんだよ、ぼーっとして…たかこセンセに何かされたか?」
からかう様に言ってやると、京一はニッと嫌な笑いを浮かべた。
「いや、さっきひーちゃんが俺と2人きりの世界もいいなーっていったよな?」
言われて俺も先ほどの言葉を反芻し、顔に血が上る。
「だっ、だから俺は戻ってきて良かったっていってるだろ!!
うわっ!離せこのっ、きょうい…っ」
京一に覆い被さられて、息苦しさを感じ俺は暴れた。
「ひーちゃん、俺もひーちゃんと一緒に居たい。だから…」
―――今日泊まって行っても良いだろ?―――
掠れた声で囁かれ、俺の心臓は一気に加速度を上げた。
こいつ…俺の気持ちを知っているのか?
「ちょっと、京一…、お前それどういうつもりで言ってるんだよ?」
俺から身を起こして、京一が不思議そうな顔をする。
「どういうって…そりゃ、俺はひーちゃんが好きで欲しくて堪らないんだ」
余りにさらっと凄い事を京一が言ったから、俺は軽く京一の頬をつねってやった。
「いでで…ちえっ、うなされているひーちゃんの方が可愛かったなぁ。
俺が耳元で呼びかけると、手を伸ばしてきてしがみ付いて来たりしてさ」
「それって…もしかして」
あの蜃気楼の世界で京一が俺に向かっていった言葉。
「お前、俺に『戻ってこいとか』『待ってる』とかって枕元で言ったか?!」
京一はきょとんとして、俺の顔をまじまじと見詰める。
「ああ、確かに言った…というか、心の中で願ってた」
そうか。やはりあの世界の京一は…。
納得している俺を見て、京一はそっと笑った。
「俺の声が届いていたんだな」
じゃあ、もしかして…ッ!!
「きょ…ういちッ!俺に何かしたな?!」
その言葉だけでピーンと来たらしく、京一がニヤリと笑う。
「ああ、可愛かったぜ。俺がキスしたら睫がふるふる震えてさ。
震えながら僅かでも応えてくれ…ぐふっ」
「おっ…!お前抵抗できない人間に舌まで入れやがったなぁぁぁぁッ!!!」
本当は秘拳黄龍でもかましたいところだったが、京一だから大目に見てやる。
「じゃあ、これは憶えてるか?」
京一は急に真剣な態度で俺と向き合った。

「好きだぜ、ひーちゃん」
「好きだよ、京一」

俺も間髪入れずに返す。
即答した俺を見て固まった京一に、俺はそっと口付けた。






「あの世界で出会ったのが京一じゃなかったら、きっと直ぐ帰っていたよ」
俺の言葉にむっと京一が唸る。
「どういう意味だよ、それ」
俺はその態度が可笑しくて、よしよしと京一の赤みがかった髪を撫でる。
「だってあの世界の京一と会う前から、俺には京一の存在が一番大きかったからさ」
その言葉に、京一は拗ねた様にわしわしと無造作に髪を掻き混ぜた。
「あーあ。何だかこれだけで満足しちまったな。ま、病み上がりだし今回は見逃してやるぜ」
でも、今夜傍にいてもいいよな?
答えの代わりに、俺は京一の背にしがみ付いた。
この至福の時が、この世界が、蜃気楼ではない事を噛み締めながら。
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