+徒然小説+

□微妙な差(魔人学園)
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「…?!っ。龍麻…」
 自分とほぼ同じ背丈、髪型の影が僕にその名を紡ぎ出させた。
「あ、やっと見つけた。こっちの方で紅葉の気配がしたから…やっぱり当たっていたね」
そう言って、龍麻はゆっくりと笑った。
やっぱりそうなんだ、と満足そうに呟いて。
「…何がやっぱりなんだ?、龍麻」 
そういうと、彼はだってと続けた。
「紅葉の気は、俺と同じなんだ。そう、陽と陰…別れてはいるけど、根本的には同じ物だと鳴滝さんに教わった。同じ物だからこそ、何だか気持ちがいいのかも」
「同じ…僕と龍麻が?そうは思えないな」 
思わず自嘲気味な笑みが口元を歪める。
「…なんで?」
無邪気に尋ねる龍麻を見て、僕は溜め息を吐いた。
「…君と僕は根本的に違う。気の質は同じくとも、その源となる心が違う」
「それはそうだけど…!」
尚言い募ろうとする龍麻を制して、僕は言った。
「だから…惹かれたんだよ、僕は」 
そう、他でもない君に。
「君は違うのかい?」 
「そんな事…僕は紅葉だから…。それ以外に理由なんて無い。」
違うから、惹かれる。同じならば僕は君と行動を共にする事はないだろう。
「ねぇ、何処が違うの?」 
「それは君のそんな性格と僕の屈折した性格の違いだよ」
途端、彼は悲しそうな目をむけた。
そして彼が僕に向かって片手を上げた。その勢いに、咄嗟に僕は頭を手で庇う。
予想だにしなかった生暖かいものが僕の頬を撫でて、僕は身を強ばらせた。
「君は僕を殴るつもりじゃなかったのかい」 
出来るだけ落ち着いたように、声音を低くして。
「…だって、紅葉が泣いているから」 
そう言って彼は僕を不安そうに見上げた。 
「ごめん、紅葉。僕君を傷つけた…?」
「可笑しい事を言うね、龍麻。僕は泣いてなんかいないだろう?何でそんな事を言うんだい」
「見えたんだ、僕は」
そして僕の頬を触れた指で辿る。
その温もりが余りにも儚く消えてしまいそうで。
気がつくと僕は龍麻の手をしっかりと捉えていた。
「…どうして、僕に構うんだ。僕は人の傷付け方しか知らない。龍麻を傷つけたくないのに、
こんなに傍にいてはその想いも叶わない」
「それは違う!」
途端龍麻が声を荒げた。
「僕は紅葉と一緒に居たい。だから、すべて僕に話して」
そして一歩僕から後ずさりしたが、僕は彼の手首を掴んだまま離さなかった。
いや、離せなかった。自分の紡いだ言葉とは裏腹に。
そして彼は腕を引かれたままの格好で僕の瞳をじっと見据えた。
「……僕は、紅葉が好きなんだよ。何時も紅葉の事見ていた。だから、君がどんな時にどんな表情をするかも大体分かる」
僕は呆然と龍麻を見詰めた。そんな事言われた事なかった。
「僕は龍麻の傍に居ても良いのか…?いつも僕は大切なものを守れなかった。君の傍に居る資格があるというのか…」
そう呟くと、急に今まで塞き止められて居た感情が溢れ出た。
「…君はいつも大切なものを守るのに一生懸命だったよ。君のお母さんだってそう思っている。皆も…そして僕も。
そしてその分君自身を犠牲にしている事も」
だから、と龍麻は僕の耳元に唇を寄せて囁く。
「もう、自分を傷付けるのはやめてくれ」
僕は弾かれた様に龍麻の体を抱き寄せた。その刹那、彼の唇が頬を掠めてその温もりに体が熱くなるのを感じた。
涙が彼の頬に落ち、川を作る。
「龍麻…君は本当に僕の欲しい言葉をくれるんだね」
そう、いつも。
自分の中にあった疑問が音を立てて崩れてゆく。
この目の前にいる大切な人と一緒に居られる術を、無意識のうちにずっと捜していた。
でも見付からずに僕は焦った。
彼を傷つけたくない一心で、いっそのこと彼の傍から離れた方が良いのかとも思った。
でもそれは違うのだと。
自分を必要としてくれる人に出会える事が、こんなにも心満たしてくれる。
「僕の傍から離れていかないで、紅葉」
また、その人が自分の最も大切な人であったという事に。
僕は思わず天を仰いだ。

「龍麻。僕が僕である限り、君を守るよ」
そう、君の傍らで。
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