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□Red
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「イアルさん、見てください!」
エリンの明るい声に、イアルは箪笥を作っていた手を止め、顔を上げてエリンを見た。
エリンは嬉しそうに笑いながら、持っていた籠をイアルの前に差し出した。
それを少し不思議そうに覗き込んだイアルは、中に入っていた物を見て小さく眉を上げた。
「少し離れた所にある木に生っていたんです。
こんなところにもあるんですね。少し驚きました。」
エリンが笑いながら目を向けた籠の中には、数個の真っ赤に熟した山林檎が入っていた。
「…美味そうだな。」
イアルがそう言うと、エリンも頷いた。
「今食べましょうか?」
「いいか?」
「はい。皮を剥きますね。少し待っていてもらえますか?」
そう言ってエリンは包丁を取りにいった。
(…本当に美味そうだな。)
イアルは目の前の机の上に置かれた数個の山林檎を見つめながらそう思った。
誰にも世話をしてもらえぬこの環境の中、ここまで立派に育った事が、とても凄いことのように思えた。
包丁を持ってエリンが戻ってくると、イアルは山林檎から目を離し、エリンを見た。
「お待たせしました。では、切りますね。」
なぜか張り切った様子のエリンを見て、イアルは小さく笑みをこぼした。
それを見たエリンは軽く首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない。…気にしないでくれ。」
エリンはまだ不思議そうに首を傾げていたが、やがて山林檎に目を戻し、包丁で皮を剥き始めた。
そのエリンを、イアルは静かに微笑みながら見つめていた。
Red
(真っ赤に熟した山林檎)
(今はこの静かな幸せを、ただ感じていたい)
→アトガキ