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□駆け抜ける時の中
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午後の光が、辺りを明るく照らしている。

新緑に輝き、風に揺られている草の上を、二人の男女が歩いていた。

時々言葉を交わしながら、静かに保護場の中を歩いていく。


ふとエリンは、横を歩いていたイアルが足を止めたのに気付き、自身も立ち止まった。

エリンが、自分よりも背が高いイアルを見上げると、彼の視線は、目の前の草地に向けられていた。

小さく首を傾げながら、イアルの名を呼ぶと、イアルは我に返ったようにエリンを見た。

「どうかしたんですか?」

そうエリンが問うと、イアルは困ったように小さく笑う。

「―…いや、…」

「?」

イアルは、不思議そうなエリンの瞳を見ると、微苦笑を浮かべながら言った。

「…そういえば、エリンと初めて会ったのはここだな、と思ったんだ」

そのイアルの言葉を聞くと、エリンは僅かに眉を上げ、視線をゆっくりと草地に移した。

「言われてみれば、そうですね。

…ハルミヤ陛下が、リランを見るためにカザルムヘお越しになった時に」

ぽつりとそう言うと、エリンは口を閉ざした。

風に揺れる髪を片手で押さえている、その横顔を見て、イアルは呟くように言った。

「笑うと印象が変わる人だと思った。

…花か、太陽のような印象に」

「え?」

不意の言葉に、エリンは思わず声を漏らし、横のイアルを見上げた。

「わたしが…ですか?」

イアルは小さく微笑んで頷き、エリンから宙に、視線を移した。

暫く、エリンはイアルを見つめて、不意に笑みを零した。

「…イアルさんは、冬の木立のような人だと思いました」

「冬の木立?」

「はい」

再びイアルがエリンに視線を移すと、エリンは柔らかく笑った。



―…

「そろそろ、夕餉の時間ですね」

茜色に染まり始めた空の端を見つめて、エリンが呟いた。

イアルがそれに反応して、顔を上げる。

「夕餉はカリサさんが食堂に運んでくださるそうですから、行きましょうか」

「そうだな」

エリンは少し視線を漂わせて、部屋の中を見回した。

学童だった頃、ユーヤンと過ごした部屋。

その部屋に、今、イアルと居ると思うと、どこか不思議な気がした。

「…エリン、行こう」

「はい」

扉を開けたイアルに返事を返し、エリンは部屋を後にした。




 駆け抜ける時の中
  (変わったものもあるけれど、変わらないものもあるのだと)


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