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□Green
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頭上に薄黒い雲が広がっているのに気付き、エリンは慌てて草の上から立ち上がった。
それとほぼ同時に、エリンの頬に冷たい小さな雨粒が一粒当たる。
エリンは微かに眉を下げ、小屋に向けて駆け出した。
直ぐに雨は小さな粒から大振りの粒へと変わり、緑の地面に水を溜まらせていく。
エリンは前方に見えてきた小屋を見つめて走りながら、小さく息を吐いた。
山の天候は変わりやすい、ということは昔の経験で分かっていた筈だったが、朝とても良い天気だったので、つい油断していた。
雨に濡れて幾分重たくなった衣類から全身にひんやりとした感覚が広がり、エリンは思わず身震いした。
小屋のすぐ傍まで来ると、その扉が向こうから開いた。
中から現れたイアルと目が合い、エリンは多少負い目を感じながら苦笑した。
イアルは自身が濡れるのも構わずに扉を更に開くと、扉に寄ってエリンを中に入れた。
小屋の中にエリンが足を踏み入れるのと同時に、木の床に水滴がぽたぽたと滴り落ち、暗い色のしみを作る。
瞬く間に小屋の中の暖かな空気に全身を包まれ、安堵のようなものがエリンの身を覆う。
その背後で小屋の扉が閉められる音がしたが、エリンは、膝から手を離し顔を上げることが出来なかった。
振り返らず膝に手をつき、忙しく肩を上下させているエリンを見、イアルは心配げに小さく眉を下げた。
未だに藁麦色の髪から時折落ちてくる透明な雫を見るや、椅子にかけてあった柔らかな布を手に取り、エリンに近づいた。
「すまないが、少し顔を上げてくれないか。」
控えめにイアルが言うと、先程よりは大分呼吸が落ち着いてきたエリンが顔を上げ、イアルを見上げた。
「…このままだと風邪を引いてしまう。」
微かに眉を顰めながら言われたその言葉に、エリンは小さく眉を上げた。
「あ…りがとう、ございます。」
必死に息を整えながらエリンがそう口にしたのを確認して、イアルはその髪を布でそっと包み込んだ。
エリンは口を開いてゆっくりと呼吸し、なんとか膝から手を離して、普段のように膝を伸ばして立った。
自身の頭を覆う布の柔らかな感触とイアルの手の優しげな動きを感じ、エリンは静かに瞼を閉じた。
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