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□Blue
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「いい天気ね、ジェシ」

窓枠から外へ顔を出しているジェシに彼女が声をかけると、ジェシは楽しそうな笑顔で振り返る。

落ちないように、とその小さな体を抱き上げながら、エリンはちらりと外を見た。


今日は本当にいい天気だ。

風に揺られる葉の隙間から、真っ青に晴れた空が覗いている。

雲もほんの僅かしかなく、太陽の光が遮られる事無く辺りを照らす。


「ね、外行こうか」

下を向いてそう言う問うと、あー、と返事が返ってきた。

言葉の意味が分かっているのかはよく分からないが、答えた瞳は輝いていた。

頷き、彼女は小屋の戸を開けた。

外の明るさに目が眩んで、思わず目を細める。

その瞬間、横から強い風が来て、二人はそれぞれ声をあげる。

目を開けたエリンが見たのは、少し離れた所で宙を漂う、薄い布だった。

「あっ、」

しまった、と心の中で思う。

あの布は、先程昼餉を食べた時に、汚れると困ると思ってジェシの襟につけたものだ。

取るのを忘れてしまっていた。

そう反省している間にも、布は風に揺られながら遠くへと漂っていく。


息子を抱えなおし、彼女はそれを追って歩き始めた。

つまずかないように気をつけながら、一歩一歩大きく踏み出す。

ジェシは不思議そうに、大きな瞳でエリンを見た。

彼女も腕の中を覗き込んで、柔らかく微笑む。


やがて風が収まり、布も緩やかに地面へ落ちた。

それでも、エリンがそこへ早足で近づこうとすると、再び風が吹いて布は遠のく。

何度かそれを繰り返した後、強い風が吹いて、布が空へ舞い上がった。


「―…わあ…」

彼女は立ち止まって、空を見上げた。

雲一つ無い青空に白い布が広がり、丁度太陽に被さる。

薄い布地から太陽の光が透け見え、布が白く輝いているようだった。

一瞬彼女の脳裏に、初めてリランと共に空を飛んだ時のことが甦った。

手に掴んだ王獣の体毛は、太陽の光を美しくはじいていた。

その王獣は、今は家族と日向ぼっこをしているのだろうか。

エリンは小さく笑って、風に流され始めた布を見上げつつ歩き出した。

しかし、今度は急がない。

見失わないように時折空を確認する。


布が風に飛ばされなければ、ここまで来ることは無かっただろう。

せいぜい、小屋の周りでのんびりするくらいだ。

今は思いがけないこの散歩を楽しもう、と彼女は思った。

ジェシも泣き出す気配はない。


青々と茂った木々が立ち並ぶ林に入って暫くすると、布は二人の足元へと落ちてきた。

今回は手を伸ばしても風は吹かなかった。

「やっと捕まったわね」

エリンが目を細めて笑いながら言う。

母のその顔を見て、ジェシは嬉しそうに小さく声をあげた。


ぴちゃん、と足元で音がする。

見ると、水溜りに写る自分と目が合った。

昨日の雨で出来たのだろう。

面白そうだと感じたのか、ジェシが水溜りに手を伸ばした。



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