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□Indigo
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後ろの方から、イアルが近づいてくる音が聞こえた。

振り向いたエリンは、彼の持っている帽子に目を留めた。

イアルはエリンに持っていた帽子を渡すと、もう一つの小さな帽子の方をジェシに被せた。

礼を言った彼女は目を細め、それを被った。

「やっぱり、海って暑いわね。

砂も太陽の光を反射していて、眩しいし」

そう言いながらも、彼女は笑みを浮かべていた。

「…でも、凄く気持ちいい。」

「そうだな」

イアルは頷き、穏やかに口元を緩めた。


突然目の前に水が飛んで、エリンは小さく声をあげた。

ジェシが両手を上下に振っていた。

海水をその手にすくっては、投げるように上へ飛ばす。

「こら、ジェシ」

彼女は笑いながら言ってしゃがみ、軽く水をジェシにかけた。

袖のない夏物の服に水がかかると、ジェシは歓声を上げて笑った。

海水から腕を出して、両手を打ち合わせた。

ジェシの手についていた水滴が飛び散り、目の前にいた彼女の顔や服にかかった。

反射的に目を瞑ったエリンは、イアルが支える間もなくそのまま転んでしまった。


「…大丈夫か?」

「ええ、」

彼が問うと、エリンは笑いながら頷いた。

それから体を起こして、自分の衣服を眺めた。

「びしょびしょ、もう」

笑いを含んだ声で言う。

近くに浮いていた帽子を拾い上げて被ると、片手でさっと水をすくって、前に立っているイアルにかけた。

意表をつかれた彼は正面からそれを受けた。

驚いて眉を上げたのを見て、エリンは、やった、と楽しそうに笑った。



潮風が柔らかく吹き、頬を撫でていった。

何時の間にか辺りは涼しくなっていた。

ジェシは拾った貝を砂の上に並べ、じっと見つめている。

「……楽しかった」

両手を伸ばしながら彼女が言うと、前に居たイアルが振り返った。

海水が乾いて出来た塩が、髪についている。

エリンは彼の傍まで歩くと、その顔を見上げた。

「また来ましょうね」

彼は微かに目を細めて頷いた。

それからジェシを見、呟くように言った。

「今度来る時は、泳げるといいな」

「ええ」

エリンは、再びここを訪れる時のことを思って、穏やかに笑った。

沖の藍色から岸辺の青色へ、白い波が流れてくる。

海を背に、しゃがんでいる息子の姿が浮かび上がっていた。



 Indigo
  (藍色に瞬く広大な海)
   (疲れなど、楽しさには到底敵わない)


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