過去のお礼小説

□目覚めを呼ぶその声
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リランの体にブラシをかけながら、エリンは静かに耳を澄ました。


春告げ鳥の美しく鳴く声が、どこか遠くの方から聞こえてくる。

その声はまるで、待ち望んだ春の目覚めを喜ぶ子供の声のようでもあった。



最近では、太陽の光が徐々に暖かみを帯び、地面には所々花が芽吹いていた。


虫や動物達は長い眠りから覚め、再び生を味わい始めた。

寒さにたじろぎ、寒い時には一心に身を丸めていたリラン親子も、今では毎日外へ出、春を満喫している。


自身の足に頬を擦り付けるようにしてじゃれてきたアルに気付き、エリンは手を止めて下を向いた。

微笑んでブラシを肩にかけ、手を伸ばしてその頭を撫でると、さも気持ちよさそうに目を細め、ロン、と声を漏らした。


ずるっとブラシがエリンの肩から落ちそうになり、慌てて腕を伸ばしてブラシを持ち直す。


しかしその腕をブラシが滑り、ばさっとという音をたてて草の上に落ちた。

じゃれつくアルを片手で必死に制しながらエリンがブラシに手を伸ばすと、それよりも先にブラシが視界から消えた。


エリンが驚いて顔を上げると、そこには微かに笑みを浮かべ、ブラシを手に持ったイアルが立っていた。


「ありがとうございます。」

ブラシをイアルから受け取りながら、エリンが花のような笑みを零して言った。



春日が二人を優しく照らし、芽吹いたばかりの花は風を受けて小さく揺れる。


エリンは自然と自身の胸が踊るのを感じた。


春は目覚めの季節、生命の生まれる季節だ。



無意識に腹に手をやったエリンに気付き、イアルは柔らかく笑った。

数年前なら恐らく見せなかったであろうその笑みを見つめながら、エリンは湧き上がる喜びに目を細めた。



小さな春が訪れた山に、春告げ鳥の美しい鳴き声が優しく響いた。


 目覚めを呼ぶその声
  (未来がとても待ち遠しい)


→アトガキ

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