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□ある花々の香り
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―…


エリンは緑に茂った木々の間を抜けると同時に立ち止まり、

驚きとも喜びともとれる表情で、辺りをゆっくりと見回した。


「わぁ……」


小さく感嘆の声を上げると、エリンは目の前の花畑の中に駆け出した。


周りを木々が囲むように立っている場所で、色とりどりの花々が辺り一面に広がっていた。


時折吹く風に何枚かの花弁が舞い上がり、花の上にひらひらとゆっくり落ちていく。


離れた所には、小さな湖もあった。


「これは…。」

後ろでイアルの静かだが驚いたような声が聞こえ、エリンは振り向いた。


イアルは暫く辺りを見回した後、エリンに近寄った。


「こんな場所があったとは、気付かなかった。」

エリンの傍らで、イアルはそう言った。

「わたしもです。」


エリンは小さく笑うとしゃがんで、近くに咲いていた花の香りをかいだ。


花の持つ甘い香りが、エリンの顔を綻ばさせた。

ふいにイアルがかがみこみ、エリンの額に口付けをした。


「……イ、イアルさん?」

突然の事で真っ赤に染まったエリンの顔を見、イアルは微かに笑みをこぼした。


「…少し、ここで休んでいこう。」


エリンが戸惑いながらも小さく頷くと、イアルは彼女の傍らに腰を下ろした。


エリンも静かに座り、恥ずかしさを誤魔化すように花々を見つめた。


(―…驚いたけれど、)

イアルが以前にも増して自身に心を開いてくれている事を感じ、エリンは嬉しさに目を細めた。

しかし同時に先程の口付けが頭の中に浮かび上がり、エリンは再び赤面した。



肩に感じる温もりと、辺りに漂う甘い香りが心地よかった。


 ある花々の香り
  (隣の貴方が愛しくてたまらない)


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