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□心の底の感情
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小さく、馬の駆ける音が聞こえ、エリンは目線を上げて音のする方を見た。


馬の足音は徐々に近づいてくる。


近くに居たリランが、小さく唸り始めた。


エリンは、自身の鼓動が速まるのを感じた。

心の底から言いようの無い不安が込み上げてくる。

エリンはゆっくりと息を吸い、それに耐えた。


しかし、次の瞬間現れた馬の上に跨った人物を見て、エリンは目を見開き、力を抜いた。



―…


「どうしてここへ?」

お茶を差し出しながらエリンが問うと、トムラは困ったように笑った。


「休暇兼雑用みたいなもんだ。

エサル先生に『エリンの様子、見て来なさい』って言われてな。

あと、これ。」


トムラは先程馬に乗せていた荷の中から包みを取り出すと、机の上に乗せた。


「何ですか?」

包みを不思議そうに見つめながらエリンが言うと、トムラは包みを開いた。

包みの中には、数冊の書物が入っていた。


エリンは目を輝かせ、その書物を見つめた。


「エサル先生が、お前にだって。」


そうトムラが言うと、エリンは嬉しそうに笑った。

「カザルムの様子はどうですか?」

エリンがそう問うと、トムラは冗談っぽく肩を竦めて見せた。

「学童も教導師も全員、元気だよ。

特に学童達は、毎日毎日元気すぎるくらいだ。」


うんざりしたようにトムラが言うと、エリンは可笑しげに笑った。



暫くトムラと話をしていると、不意に後ろで床の小さく軋む音が聞こえた。


「…エリン?」

聞き慣れた静かな声が聞こえ、エリンは振り返った。


後ろに立っていたイアルはトムラをじっと見、軽く頭を下げた。

トムラもそれに答え、小さく頭を下げる。


「トムラです。カザルム学舎で教導師をしています。」

「イアルです。」

短くイアルは言い、エリンに目を移した。


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