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□この心情の証に
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イアルは一人、自分の感情と葛藤していた。
机に両腕を乗せ、じっと机を見つめる。
時折眉間に触れて、微かにため息をつく。
かれこれ数時間前からこうして椅子に座っているのだが、一向に彼が立ち上がる気配はなかった。
パタン、と戸が閉められる音が聞こえた。
次いで小さな足音が、彼に近づく。
その足音の主は、黙って椅子に座っている彼を見、軽く頭を傾げた。
「―…イアルさん?」
イアルは静かに振り返ると、不思議そうに自身を見つめているエリンの瞳を見つめた。
暫くそうしていたが、やがて苦笑を浮かべると、彼はエリンから目線を逸らした。
「いや…」
何かを含んでいるようなその口調に、エリンは訝しげに小さく眉を顰めた。
するとそれに気付いたのか、イアルが再びエリンを見て、微かに笑った。
「その…、いや、何でもない。」
そう言って立ち上がり、彼女から離れようとするイアルの袖を掴んで、エリンはその顔を見上げた。
じっと射抜くように見つめ、静かに口を開く。
「イアルさん」
はっきりとした声で名を呼ぶと、宙を泳いでいたイアルの目が、エリンの目とかち合った。
エリンは少々間を置いてから、目線を逸らさぬまま言葉をつなぐ。
「ちゃんと言葉にしてくれないと、分かりません。
…教えてください、何なんですか?」
イアルは戸惑ったようにエリンを見つめていたが、微かに眉を下げると、小さく苦笑した。
その仕草は助けを請うようにも見えたが、エリンは眉一つ動かさず、ただじっと見つめていた。
観念したのか、イアルは瞳を僅かに揺らすと、眉を寄せながらもようやく小さく口を開いた。
「………カザルムの教導師、と…前、話をしていただろう?」
「はい、」
エリンがきょとんとした顔で答えると、イアルは自嘲するかのような、不思議な笑みをにわかに浮かべた。
その彼の口からポツリポツリと語られる言葉に、エリンは瞳を逸らさず、じっと耳を傾けた。
二人の他に誰も居ない小屋の中で、イアルの、聞き慣れた、低く、落ち着いた静かな声は、彼女の頭に直接響いた。