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□閉じた瞼に願い事
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静かに、閉じていた瞼を開けると、エリンは目の前の深い闇をじっと見つめた。

ぼんやりとしていた頭がはっきりとしてくるにつれ、その闇が何なのかを認識する。

そろそろと身を起こすと、寝具の布がぱさりと捲れ、彼女の膝に乗った。


暖かい寝具が少々名残惜しかったが、エリンは寝台から降り、次いで自身が出た時に捲くれた寝具を整えた。


くい、と一つ伸びをしてから歩みだすと、微かに床の板が軋む音がついてきた。


未だ寝台で寝ている彼を意識して、静かに、ゆっくりと戸を開けて、彼女は寝室から出た。



微かに夜の暗い色を残した台所に着くと、エリンは窓へ歩み寄り、その細い枠を押して、外側へ押しやった。


窓が開くと同時に、外の朝日の光と木々の香り、そして夜明けの後の清々しい風などが、一気に小屋の中へ流れ込んだ。

暫くの間、瞼を閉じてそれらを感じてから、エリンは体ごと振り返り、やる気を出すように衣服の袖を捲り上げた。


少しふらつく体を支えながら歩き出し、机の上に置かれていた小鍋を、両手で持ち上げる。

妙にだるく感じる自身の体を不審に思いながらも、朝餉の支度に取り掛かろうと、鍋をかまどに置いた。

しかしいきなり、まだ寝ていると思っていた彼の声が聞こえて、エリンは驚いて後ろを振り返った。


「―…エリン」

再び彼女の名前を呼ぶと、イアルはエリンを見つめたまま、眉を顰めた。

窓から小屋の床まで斜めに通った光の柱が、イアルの背後で輝いていた。

エリンが目を細めて眩しそうにしていると、何時の間にかイアルが目の前に立っていた。

イアルは、困惑の表情を浮かべているエリンを訝しげに見、不意に彼女の額へ手を伸ばして触れた。


「イアルさ、ん?」

あっという間に朱に染まる彼女の顔を、眉一つ動かさずに見つめて、イアルはもう片方の手を、今度は自身の額に伸ばした。

そして暫く、エリンと自身の額に片手ずつ置いたまま黙って、彼は再び眉を顰めた。

イアルは小さく溜め息をついて手を下ろすと、エリンの、吸い込まれるような緑の瞳を見据えた。


「………エリン、少しは自分の体の心配もしてくれないか。」

その一見責めているようにもとれる言葉とは裏腹に、彼の口調は優しげで、彼女を気遣っているようだった。

「どうかしたんですか?」

「…凄い熱だ。

こんなに熱があればだるいだろうに、よく気付かなかったな…。」

イアルは、苦笑を含んだ声色でそう言った。

「確かに、そう言われてみれば…、だるかったです。

でも、まさか熱があるなんて、考えもしませんでした。」

肩を竦めて言い、エリンもイアルと同じ様に苦笑を浮かべた。



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