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□陽光の中の追憶
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樹枝にとまっていた小鳥が、草が踏まれる音に反応して、囀りながら空へ飛び去った。
そのサクサクという音の主、エリンは、歩きながら、何かを探すように視線を巡らしていた。
しかしやがて、近くにいる王獣の親子に気付き、その場に立ち止まった。
「おはよう、リラン、エク」
自身より遥かに高い位置にある、リランとエクの顔を見上げて微笑むと、ロン、という泣き声が返ってきた。
横からじゃれてくる、アルにも声をかけてから、エリンは再び辺りを見回した。
そして、幾らか遠くのほうに、こちらへ歩いてくる人影を見つけた。
エリンが笑みを零しながら手を振ると、それに答えるように、その人影は軽く手を上げた。
それからイアルは足早に歩いてきて、あっという間に、彼女の傍へたどり着いた。
「おはようございます」
イアルは柔らかく目を細め、あぁ、と呟いた。
ふと、彼女が自分をじっと見ているのに気付いて、イアルはその目に不思議そうな色を浮かべた。
それを見て、エリンは誤魔化すように笑った。
「いえ、その…、何ていうか、嬉しかったので。」
イアルは、何が、と言いたげに彼女を見つめた。
エリンは言葉を捜すように暫く間をおき、やがて再び口を開いた。
「イアルさん、近頃は、とてもよく笑ってくれますよね。
……その笑顔を、今、わたしが見ることができているのが、嬉しいんです。」
そう言うと、エリンは少し恥ずかしそうに笑い、イアルから目線を逸らした。
イアルは、微かに紅潮したエリンの横顔を見つめながら、彼女の言葉を思い起こしていた。
「―…確かに、俺は最近、気付けば笑っているな…。」
笑いを含んだ声で呟くと、エリンは振り向き、彼を見上げた。
「そうですよ。
以前は、本当に仏頂面だったんですから。」
くすくすと小さく笑うエリンに、イアルも口元を緩めた。
からかわれている気もしないではなかったが、彼女の口調は、それを無視できるくらい、柔らかく、嬉しげだった。
「そういえば、カイルにも時々、そのことを指摘されたな」
不意に、懐かしむようにイアルが言うと、エリンは興味をひかれて瞳を輝かせ、その口を開いた。
「なんて、言われたんですか?」
「――…“お前は、一体何がそんなに気に入らないんだよ、おい。
ずっとそんな顔でいると、どんどん老けていっちまうぞ。
少しは、若返ろうと思わないのかよ”」
腰に手をあてて、説教をするかのようにそう告げるカイルと、
それを聞いても以前表情を崩さないイアルが、いとも簡単に頭に浮かび、彼女は思わず笑みを零した。