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□陽光の中の追憶
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カイルという、イアルのかつての同僚の話は、エリンも何度か、彼から聞いたことがあった。

その話から想像できる、飾り気のないカイルの人柄に、エリンは好感をもっていた。

そしてそれと同時に、イアルが彼を信頼し、心を許していることも、イアルの表情などから感じ取っていた。

イアルは、カイルのことを話すとき、どこか楽しそうに、口元を微かに緩めて話すのだ。


少しの間、頭の中でそうして考え事をしていたエリンは、ふと、思い出したように声をあげた。

「―…あ、でも、わたしも、そんなようなことをユーヤンに言われた事があります。」

「エリンが?」

驚いた風にイアルが問うと、彼女は小さく苦笑しながら答えた。


「私の場合、無愛想とか、そういった話ではないんですけれど。

…リランの世話係を始めてまだ間もない頃、ある日、呆れ顔で言われたんです。」


身を乗り出すようにして自分の目の前に立ちはだかった、あの日のユーヤンを思い出し、エリンは自然に口元を緩ませた。

子供に言い聞かす母親のような口調で、ユーヤンはエリンに言った。


「…“あのなぁ、そんなに毎日忙しくせんと、少しは休んだらどうなんや。

いくら王獣の世話係になっても、体を壊したら元も子もないで。

へたしたら、王獣舎から出てきたら、溜まりに溜まった疲れでお婆さんになっとりました、なんてこともあり得るんやで”」


ユーヤンの言葉をなぞって口にすると、一気に身体の底から、懐かしさが込み上げてきた。

それはさすがにないんじゃない、と苦笑した日が、もう何年も前だということが、不思議に思えた。


顔を上げると、微かに目を細めたイアルと、視線がかち合った。

「どこも、言う事は同じだな」


静かな声色で言われた言葉に、エリンは小さく頷いて同意した。


突如、二人の間に沈黙が流れた。


それを待っていたかのように、横からアルがエリンに近寄り、その頬を彼女に擦り付けた。

突然のことで、エリンは驚いて思わず声をあげそうになった。

が、甘えた声で鳴きながら頬を押し付けるアルを見ると、彼女の顔には優しい笑みが浮かんだ。

エリンがアルの頭を撫でてやると、今度はリランが彼女に顔を寄せる。

その後ろに居るエクは、エリンではなくアルに目を向け、小さく鳴いてアルを呼んでいた。


昔とは違う、ということを、改めてエリンは実感した。

リランには夫と子供がいる。

自分はカザルム学舎を出て、学童ではなく大人になっている。

…イアルも、共にいる。

辛いこともありはしたが、それらも全て、今を創り上げているものだ。


腕を上に伸ばしてリランの額を撫でながら、自身の心が軽くなるような感覚を、彼女は感じていた。



 陽光の中の追憶
  (未来は今から創り上げる)


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