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□気掛かりと、罪悪感と
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外へ開けた窓から、清々しいほどの風が、緩やかに小屋の中へ入ってくる。

風は小屋の中を流れ、やがて、漂っていた静かな空気と混ざり合った。


不意にそれを感じた彼女は顔を上げると、微笑むように目を細めた。

少し横を向けば、黙々と箪笥を作っているイアルが目に入った。

エリンは書物を読んでいた手を止め、ゆっくりと立ち上がった。

同時に床と椅子の擦れる音が小さく響く。

その音に反応してか、彼が箪笥から目を離し、エリンに視線を向けた。


「あと、どれくらいで完成なんですか?」

イアルの隣に立ったエリンは、箪笥を見つめながらそう問うた。

無表情だったイアルの顔に、微かな笑みが浮かんだ。

「…もう少しだ。

大体は出来上がっているから、完成までそう時間もかからないだろう」

小さく頷き、彼女はその場にしゃがみ込んだ。

エリンは子供のような瞳で、箪笥をしげしげと眺めた。


表面の装飾はまだ途中だが、それがあまり気にならないほど、既にその箪笥は、十分見事だった。

丁寧に削られた木は見るからに滑らかで、使い勝手もよさそうだ。

イアルは更にこれを、器用に細部まで手を加え、自分の納得のいく形に仕上げていく。


「エリン?」

名を呼ばれて、エリンは我に返った。

エリンが慌てて横を向くと、今度はイアルの瞳と視線がかち合う。

思わず視線を逸らして俯いた彼女は、そこでふと動きを止めた。

「イアルさん、その手、一体どうしたんですか?」

「…あぁ、さっき、のみで切ったんだ。」

イアルは、血が滲んだ自身の手を見た。

彼の口調は普段通りで、少しも焦っている様子はない。


それ程深く切れたわけでもなさそうだが、だからといって、このまま放置しておける傷でもない。


呆れたように、彼女は一つ、溜め息をこぼした。

「そのままにしておいて化膿でもしたら、どうするつもりですか。

ここで大人しく待っていてください。今、薬を持ってきますから」

微かに肩を竦めたイアルを一瞥して、エリンはすっと立ち上がった。

薬を探している間も、無意識に彼女は眉を寄せていた。


彼のあの性質を、どうにかできないものだろうか。

心の中でエリンはそう呟いた。


「傷をよく見せてください」

静かな声で言うと、彼は黙ってそれに従った。

見れば、既に出血は大体、止まっているようだった。


薬を、と思って彼女は、まだ蓋が閉まっていることに気付いた。

なかなか開かない、薬瓶の蓋を開けようと奮闘しているエリンを見て、イアルは薬瓶をその手から取った。

彼が蓋を捻ると、小さな音がして蓋が回った。



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