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□気掛かりと、罪悪感と
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エリンは薬瓶を受け取り、微かに笑みを浮かべながら小さく礼を言った。

瓶から薬を指にすくって、傷口に塗っていく。

それが終わると、薬と共に持ってきていた布にはさみを入れ始めた。

エリンは、切っては傷口に近づけて大きさを確かめ、また切って、という作業を何回か繰り返した。


暫くすると納得のいく形になったらしく、それを傷口に当てた。

その上から、先程とは違う、細い帯状の布を巻きつける。


ずっと無表情のまま彼女の動きを見つめていたイアルは、ふと微かに瞳を揺らした。

気配でそれを感じたエリンは、不思議に思ったのか、俯いていた顔を上げた。


「すまないな」


微苦笑を浮かべて呟くイアルに、彼女は小さく眉を寄せた。


「こんなことで謝らないで下さい。

……ほら、出来ました。

すぐだとは思いますが、傷が直るまで、無茶はしないでくださいね」

「…あぁ、分かった」

イアルが、白い布を当てられた自身の手に触れながら頷いた。


暫く彼女は黙ってイアルを見ていたが、不意に小さく唇を震わせた。

イアルは視線を向け、彼女の言葉を待った。

しかしエリンは再び口を閉ざし、何も言わずに立ち上がった。

薬瓶等をもとの位置に戻すカチャカチャという音が、小屋の中に響いた。



「エリン、」

エリンが振り返ると、イアルは座って体を箪笥に向けていた。

彼は、のみを箪笥に向けたまま、静かにエリンを見上げた。

「箪笥を仕上げてしまうから、終わったら二人で外へ行かないか?

多分、完成まであまり時間はかからないと思うが…」


その提案に、彼女がぱっと顔を輝かせる。

はい、と答える声は、先程よりも明るかった。

頷いて、イアルは箪笥に向き直った。

エリンはその手の慣れた動きを見つめながら、隣にしゃがみ込んだ。

二人とも一言も言葉は交わさず、箪笥を削る小さな音だけが、空気を伝わって耳に届く。

エリンはそれに、妙な心地よさを覚えた。


彼等が立ち上がって微かに笑い合うまで、それからそう時間はかからなかった。



 気掛かりと、罪悪感と
  (…何時も、貴女には心配をかけてばかりだな)


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