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□伸ばした手の先に
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「…イアルさん」

「あぁ」

「どうしようもなく、好きなんです」

「…あぁ」

「好きで、大好きで、愛しくて、どうしたらいいか分からないんです」

「…あぁ、」

イアルは苦しげに、微かに眉を寄せて目を細めた。

「それは、俺もだ」

心の底から搾り出すように言った。

それを聞いたエリンは口元を緩め、小さく微笑んだ。

―よかった。

眠りにおちる寸前、彼女はそう呟いたようだった。




イアルは、脱力感を感じながら、その目を開けた。

見上げる先には、茶色い木の天井。

下に目を向けると、そこにあるのはしっかりと体に被さったかけ布団。

(…夢…?)

思うと同時に、彼の頭の中を疑念が覆った。

何だか腑に落ちなかったが、とりあえずその体を起こす。

イアルは、自分以外誰も居ない寝室で、黙って眉根を寄せた。


扉を開けて部屋から出ると、丁度エリンが朝餉を机に並べているところだった。

彼女は振り返って彼を見、微笑んだ。

朝の挨拶を交わしてから、椅子をひく。

座ったイアルの前に皿を並べ終わると、ふと彼女が動きを止めた。

「そういえば、…不思議な夢を見た気がするんですよ」

ぽつりと呟かれたその言葉に、彼は一瞬、どきりとした。

「……不思議とは、どんな風にだ?」

「え、えと、あの…」

エリンは言葉に詰まった。

誤魔化すように小さく笑いながら、視線を逸らす。

「んと…、夢のはずなのに、妙に感覚が現実的で…、

あと、その夢での会話とか感触が、未だに残っているんです」

彼女はそこまで言い終わると、イアルから離れた。

しかしイアルは、その耳がほんのりと赤くなっていることに気付いていた。

目線を僅かに下へ落とすと同時に、彼は思わずこめかみに手を当てた。

ゆっくりと、静かに、溜めていた息をつく。


二人で同時に、全く同じ夢を見ることなど、あるのだろうか。

不意に、あの時の彼女の顔が頭に浮かんだ。

―…イアルさん、お願いです

俯きながら、エリンはそう呟いた。


夢、だったのだろうか。

複雑な気持ちを抱えつつ、二人は向かい合って朝餉を口に運ぶのだった。




 伸ばした手の先に
  (夢だとしても、どうか俺を頼って欲しい)


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