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□その瞳に映るのは
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エリンが粥を食べている間、彼は寝台の横に椅子を置き、座っていた。

そして、彼女が飯茶碗に入っていた粥を食べ終わると、ふいとそちらを向いた。

「…もう一杯、おかわりしてもいいですか?」

微笑とも苦笑ともつかぬ笑みを浮かべ、言った。

それを聞くとイアルは頷き、彼女から飯茶碗を受け取った。

鍋にしてあった蓋をとり、中を覗く。

まだ幾らか残っていた。

それを飯茶碗に移し変え、再び彼女に渡した。

粥を食べ始めた彼女の、ほのかに上気した顔を見つめながら、彼は小さく微笑んだ。

無意識に張り詰めていた糸が、少し緩んだような気がした。

「…よかった。食欲はあるようだな」

呟くように言う。

エリンは小さく笑って彼を見、また粥を口に運んだ。

この様子なら、思っていたより早く、よくなるかもしれない。


「ごちそうさまでした」

彼女が空になった飯茶碗を差し出す。

イアルは椅子から立ち上がり、受け取ったそれをお盆に載せた。

そのまま部屋を出て行こうとした彼を、エリンの声が引きとめた。

「イアルさん」

立ち止まってエリンを見ると、目と目がかち合った。

真っ直ぐに見上げるその目は、しかし、微かに寂しげな色を浮かばせていた。

イアルは一瞬考え、持っていたお盆を机に一旦戻した。

それから、エリンの寝ている寝台へ近づいた。


頬に触れると、彼女の瞳が微かに揺れた。

彼が彼女の脇に片手を置いて屈むと、寝台が小さく軋んだ。

見上げる彼女の顔に、影が落ちている。

顔を傾けてその頬に口付けをして、イアルはそっと体を起こした。

「…食器を片付けたら、戻ってくる」

静かにそう言った。

エリンは柔らかく笑うと、わかりました、と頷いた。

それにこたえるように彼は目を細め、置いておいたお盆を手に持った。



 その瞳に映るのは
  (いつもの恩返しだと、思ってもいいのだろうか)


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