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□唐突な贈り物
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「――…………………………………エリ、ン?」

たっぷり間を開けてから、イアルはその名を呟いた。

彼の表情には、はっきりとした困惑の色が浮かんでいる。

「…ちょっとだけ、失礼します……」

すぐ後ろから、くぐもったような声が聞こえてきた。

徐々に頭が落ち着いてきたイアルは、自身の腰に巻かれたものを見た。

よく見るとそれは、端に細かく数字が書かれた、巻き尺だった。

いよいよ訳が分からなくなり、イアルは小さく眉を顰めた。

仕方なくそのまま黙っていると、不意にそれが視界から消えた。

振り向くと、顔を上げたエリンと目が合う。

彼女は、巻き尺を片付けながら、にこりと笑った。

「ありがとうございました」

「…?」

困惑している彼を置いて、エリンはそそくさと部屋へ消えた。


(…何だったのだろうか)

考えても考えても、その答えは出なかった。


―…

「イアルさん」

エリンが、戸を開けると同時に声をあげた。

次いで、顔を上げたイアルに、小さく笑った。

「これ、着てみてくれませんか?」

差し出されたものを手にとって広げたイアルが、軽く眉を上げる。

後ろ手に紐を結ぶと、長さも丁度よい。

見事な前掛けだった。

深い紺色の布が、丁寧に縫われている。

紐を結べば全く下へずり落ちないのも、心地よかった。

「………どう、ですか?」

黙っている彼に耐えかねたかのように、エリンがそう問うた。

彼が小さく頷くと、途端に表情を崩す。

「よかった。

久しぶりに縫い物をしたので。…気に入ってもらえるか、心配だったんです」

「何?これはエリンが作ったのか?」

イアルが驚いて、眉を上げた。

すると彼女はそれに頷き、微かに頬を赤く染めた。

イアルは何も言わず、もう一度前掛けを見た。



…そういえばこの布は、以前街に下りた時、彼女が店で眺めていたものだ。

買うのか?と聞くと、暫く黙って考えていた。

結局そのまま店を出たが、この布がここにあるということは、エリンはあの後、店へ買いに戻ったのかもしれない。


彼の考えている事を見透かしたように、不意にエリンが口を開いた。

「…イアルさんに秘密で、作りたかったんです。驚きましたか?」

イアルが顔を上げ、小さく微笑んだ。

「ああ」

いたずらが成功した子供のように、楽しそうに彼女は笑みを零した。

それを見ると、イアルは、呟きにも似た問いを口にした。



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