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□唐突な贈り物
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「…しかし、何故俺にこれを?
自分の服は買わなかったのか?」
微かに苦笑しながら、エリンは肩を竦めた。
「わたしは今、着るものに困ってはいませんし。
イアルさん、仕事をする時、木屑が沢山服に付いてしまっているでしょう?
それを全部落とすの、結構大変そうだったので。
…何か力になれればいいな、と思いまして…」
最後の言葉は、恥ずかしいのか、声が少し小さくなった。
エリンを見つめていたイアルは、自然と自分の口元が緩むのを感じた。
胸から何か暖かいものが湧き上がり、それが体中を満たしていっているような、不思議な感覚だった。
抑えきれない衝動に駆られて、彼は思わず手を伸ばした。
「イアルさん?」
突然抱き寄せられて驚いたのか、そう小さく声を上げる。
「ありがとう」
吐息と共に呟かれた言葉の、あまりの優しさに、エリンは一瞬動きを止めた。
「とても…、嬉しい」
――…
エリンは、彼の胸に顔をうずめたまま、微笑んだ。
外にいるときと比べて、この小屋の中のほうが、イアルが素直に感情を表に出すことが多い。
そこに自分に対しての信頼を感じて、彼女の胸に嬉しさと愛しさが溢れた。
「―…大好きです、イアルさん」
無意識に囁いてしまってから、顔を真っ赤に染める。
恥ずかしくてイアルから離れようとしたものの、背に回された腕で動きを止められてしまい、それは叶わなかった。
先程よりもきつく抱きしめられて、既に心臓が早鐘を打っている。
二人共何も言わないまま、幾らか時間が経った。
たえかねてエリンが顔を上げると、イアルと視線がかち合った。
彼は微かに笑みを浮かべ、その腕を静かに解いた。
それと共に、ずっと感じていた温もりが離れていく。
ちくりと針で刺されたような寂しさを感じ、エリンは僅かに顔を歪めた。
「イアルさん、お茶、飲みませんか?」
彼女は思わずそう問うた。
するとイアルは頷き、「頼む」と言って微笑んだ。
茶が湯飲みに注がれるこぽこぽという音を聞きながら、イアルは目の前にある作りかけの小物入れにかんなをかけていた。
削るたびに表面が滑らかになっていくこの感覚が、彼は好きだった。
「お茶、はいりましたよ」
いつの間にか傍らに立っていたエリンの、柔らかな声が降ってきた。
その声で彼は我に返り、ああ、と言って顔を上げる。
「…あまり、根を詰めすぎないで下さいね」
湯飲みを手渡しながらかけられたエリンの言葉に、彼は小さく眉を上げた。
彼女からは、そう見えるのだろうか。
彼女の方が自分よりも多くの仕事をこなしていると、イアルは感じていた。
しかし、エリンの瞳には、紛れもなく、心から彼の身を案じる気持ちが表れていた。
「―…わかった。…ありがとう」
やっとの思いで呟くと、エリンは柔和な微笑みを浮かべた。
唐突な贈り物
(貴女がいるだけで、こんなにも穏やかでいられる)
→アトガキ