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□ある男達の暇つぶし
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店の呼び込みの声、馬の蹄の音、通る人々の足音。
多くの音が混ざり合い、その中を、語らい合いながら人が歩いていく。
王都の街道は、今日も賑わいを見せていた。
そんな王都の一角にある料理屋は、昼餉を楽しむ客と、まだ昼であるにもかかわらず酒を楽しむ客で満ちていた。
料理屋の座椅子に座った男は、手に持った杯を持ち上げて、ぐびりと喉を鳴らした。
「いい飲みっぷりだなあ」
声をかけたのは、男の隣に腰掛けている、職人風の衣を纏った男だ。
赤みがかった顔からして、この男も既に、酒がまわっているようであった。
突然話しかけられても驚く様子もなく、男は笑いながら杯を置く。
振り返って、声をかけてきた男を見てから、彼は不思議そうに首を傾げた。
「お?お前、職人なのか。作業着のくせに、なんで昼間っから酒を飲んでるんだ?」
仕事はいいのか?と男が聞く。
職人風の男は、へらりと笑って、自分の杯に酒を注ぎながら口を開いた。
「今日は休みさ。けど、朝に少しばかり作業があったもんでね、」
「あぁ、分かったぞ」
くい、と杯を傾けながら、職人風の男は目で先を促した。
「着替えるのが面倒くさかったんだろう」
「その通り。さてはあんたも、俺と同じなんだな」
「その通り!」
わはは、と二人の笑い声が重なる。
そうして、酒に酔った男二人は、笑い声をあげながら言葉を交し合う。
時間が過ぎて、酒も無くなり、周りの食事客の姿も少なくなった頃には、二人の男は打ち解けあっていた。
「ありがとうございましたー」
代金を払って、二人は一緒に店を出た。
僅かに熱気を含んだ風を身に受けながら、横に並んで歩き出す。
「― なら、あんたも今日は休みなのか」
「まあな」
職人風の男が声をかけると、少々気の抜けた返事が返ってくる。
彼は、隣を歩いている男に視線を向けた。
大柄で、がっしりとした体の男は、その外見に似合わない、のんきな欠伸をしている最中だ。
(…なんだか、不思議な奴だなあ)
初めて会った気がしない。それどころか、妙な親近感を覚えるのは、何故なのか。
と、その時、あ、と欠伸を中断して、男が前のほうの一点に視線を集中させた。
「…お、今日は二人か」
「?」
その視線をたどって、職人風の男は、思わず目を見開いた。
そこにいたのは、彼もよく知っている二人であったのだ。
「…あいつを、知ってんのか?」
微かに警戒心を滲ませながら、男に問う。
すると彼は、驚いた、という風にこちらを見た。
「お前こそ、あいつを知ってんのか」
「あ、ああ」
戸惑いながらも職人風の男が頷くと、男は彼をじっと見つめながら口を開いた。
「― 敵ではないな?」
「へ?」
間抜けな声を出してから、男は問いの意味を考えた。
(敵?…あいつの敵か、ということか?)
「そんなわけがない」
きっぱりと言い切ったその顔を、大柄の男は暫く黙って見つめていたが、不意に、静かな微笑を浮かべた。
「そうか。…悪かったな、試すような真似して」
(試す…?)
怪訝そうに眉を寄せた彼に気付いているのかいないのか、男は先ほどとは打って変わった、楽しそうな表情で言った。
「なぁ。ちょっと来いよ」
男について、前へと進む。暫く歩いたところで、何故か前を伺いながら、小さく耳打ちをしてきた。
「あいつらの後、つけてみようぜ」
「…つけ……、へ?」
驚いて瞬きをしながら、彼は、間抜けな声を上げるのは今日で二回目だな、と思った。
そうして、何だか訳も分からぬうちに、二人の酔っ払いによる尾行が、開始されたのだった。