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□ある男達の暇つぶし
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(…………)

眉をしかめて、イアルは後ろを振り返った。


先程までと変わらず、王都の街道は、多くの人間で賑わっている。…けれど。

その中から、微かに感じた視線が消えたことで、イアルの顔が怪訝そうなものに変わった。

「イアル?」

「…ん、あぁ」

曖昧に返事をして振り返れば、エリンが不思議そうに、小さく首を傾げる。

「どうしたの?」

いや…、と呟きながらも、イアルはちらりと背後に視線を向けた。

その仕草に、余計疑問を抱くエリンを見て、困ったように笑う。

「何でもない。欲しいものはあったか?」

「…この髪留め、その…、貴方はどう思う?」

何故か躊躇いがちに見せられた、藍色の細い髪留めに視線を落として、いいと思うが、と答える。

すると、エリンの顔がぱっと明るくなった。

「、これにする」

「?」

今度はイアルが、不思議そうに瞬きをする。

しかし、そんな彼には気づかずに、会計をしようとするエリンを、ふとイアルが引き留めた。

「…エリン、その髪留め、貸してくれ」

「え?、はい」

エリンから髪留めを受け取ったイアルは、そのまま店の奥へ入っていく。

そして、それを店主へ渡し、財布を取り出した彼に気付いて、エリンが慌てた。

「イ、イアルっ」

「いいから」

イアルは代金を店主に手渡すと、髪留めをエリンに差し出して、店を出た。

その後を、少し遅れてエリンがついてくる。

「あの…。ありがとう、イアル」

「…いや」

イアルは振り返らずに、歩いて行ってしまう。

しかし、その耳が赤く染まっていることに気付いて、エリンはくすりと嬉しそうに笑った。



「…ぐ、……はっはは、は…」

必死に笑いを堪えている男と、それを半ば呆れ気味に見ている男が一人。

「おい。いい加減笑いを止めろって」

「だ…、て、……く、あいつ、…はは、」

肩で息をしながら、大柄なその男は、徐々に笑いを収めていく。

「― ふぅ、笑い疲れたな…」

「…あれだけ笑ってりゃ、疲れるのも当然だ」

溜息交じりの言葉を聞き流して、男は、ずっと前を歩いている二人に視線を移した。

先程の笑いで涙が滲んでいるその眼には、楽しそうな、嬉しそうな光が浮かんでいる。


「…変わるもんだな、人というのは」


その呟きが誰に向けて発せられたものであるのかは、彼自身にも、隣を歩く男にも、分からなかった。

しかし、職人風の衣を纏った男は、ちらりと彼の顔を見やると、微笑んで言った。

「…そうだな」

彼の呟きは、自分もずっと感じていたことであったからだ。



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