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□祭りを包む心情は
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「行くッッ!」
と、飛び上がるようにして立ち上がり、叫んだのはジェシ。
その視線は、彼の父親が持っている、一枚の紙片に注がれていた。
「楽しそうね」
そう言って笑みを零したのは、エリンだ。
二人の視線を受ける紙片を手にしているイアルは、やっぱりな、と目を細めて笑った。
「…お前達なら、そう言うと思った」
「みせて、みせて」
手を伸ばしてくる息子に、イアルは紙片を手渡す。それを受け取ったジェシは、自分が握っているその紙をしげしげと眺めた。
その姿に微笑を漏らして、エリンがイアルに言う。
「でも、お祭りなんて久しぶりね。街道に屋台が出るの?」
「屋台も出るし、出し物もする。ジェシも連れてきて、家族三人で楽しめよ、…と言っていた」
「ヤントクさんね」
ああ、とイアルが頷く。
今朝小屋を発ち、日暮れ頃に戻ってきたイアルは、出迎えにきたエリンとジェシに、先程の紙片を取り出して見せた。
話を聞けば、昼、ヤントクの工房に木材を買いに行った時、その祭りの話を聞かされたのだという。
「明後日から始まるのね」
紙を覗き込みながら、エリンが呟く。
「明日の昼にはここを出たほうがいいかしら」
「そうだな、」
明日の夜、どこの宿に泊まろうかと話す両親の横で、ジェシは紙を握りしめ、その瞳を輝かせていたのだった。
――…
次の日は、朝から、ジェシがそわそわと小屋の中を動き回っていた。
あの紙片に目を落として、じっと見つめる。
居間に置かれた椅子に座って、机にがばっと伏せる。
そうして動かなくなったかと思えば、窓辺へ駆け寄って、そこから顔をだしたりする。
そんな風に動き回る間にも、何度も振り返っては、言うのだ。
「まだいかないの?」
エリンは外で仕事をしていて小屋にはおらず、よって、毎回それに答えるのはイアルだった。
「昼餉を食べ終わったらな」
同じようなやり取りを何度か繰り返していると、リラン達や蜂達の世話を終えたエリンが戻ってくる。
今までのジェシの様子を伝えると、エリンは小さく苦笑した。
「…なら、少し早いけど、お昼にしましょうか。」
「やたッ」
おまつりに行けるっ、と喜ぶジェシに思わず笑みを零しながら、、エリンは昼餉の支度を始めたのだった。