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□祭りを包む心情は
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――…
「…ジェシ、……ジェシ、起きろ。」
イアルが、その大きな手で、ジェシの体を軽く揺さぶっている。
朝からのはしゃぎようが響いたのだろう。
小屋を出発してから暫く後に寝入ってしまっていたジェシは、しかし、父の声でぱっとその目を開いた。
おまつり、と瞳を輝かせたかと思えば、ふとその動きを止めて、辺りを見回す。
「……おかあさんは?」
「こっちよ、ジェシ」
前を向いてきょとんとしていたジェシは、後ろから聞こえてきた声に、ぐるりと振り向く。
そうして、エリンの姿を見た瞬間、満面の笑みを浮かべるから、自然とエリンの口元も緩むのだ。
「ほらジェシ、危ないから前を向いて」
母に促されて前に向き直ったジェシは、近づいてきた王都を見て、わあっと歓声を上げた。
「あれがおまつりっ?」
「いや、お祭りは明日になってからだ。…そういえば、ジェシを祭りに連れてくるのは初めてだな」
言いながら、イアルが馬を操って、道の端に寄る。
馬がその場で歩みを止めると、イアルは静かにその背から下りた。
「なんでおりるの?」
不思議そうに首を傾げるジェシを抱えあげて馬から下ろし、イアルは答えた。
「ここからは、馬に乗るのはだめなんだ。人が多い中で乗っていたら、危ないだろう?」
へえ、とジェシ。
顎を上げるその仕草が、少し無理に大人の真似をしているようで、イアルは思わず、小さく笑った。
「馬は宿で預かってもらえるかしら」
「大丈夫だろう」
エリンが馬から下りるのを見てから、イアルは馬の手綱を取って歩き出した。
その横を、ジェシが小走りで付いていく。
「おとうさん、どこいくの?」
「今日泊まるところに行くんだ。馬の世話もしないといけないしな」
宿は、比較的早く見つかった。
その宿の主人に馬を預け、出てきた娘に案内されて部屋へ向かおうとしたエリンたちを、宿の主人の、柔らかな声が引きとめた。
「お客さん、部屋に荷をお置きになったら、是非、近くの広場の方までどうぞ」
「何かあるんですか?」
不思議そうに、エリンが尋ねる。
にこにこと、主人は本当に楽しそうに口を開く。
「明日の祭りの前夜祭ということで、楽団が来ているんですよ。
久しぶりの大きな祭りなんで、皆、楽しみで楽しみで仕方が無いんでしょう、多分今夜は、大勢の観客で広場が埋まりますよ」