Story
□新たなる決意と共に
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もうすぐ春が来る。
アルと共に丸まって日向ぼっこをしているリランの翼に体を預け、
最近暖かくなってきた太陽の光をあびながら、エリンは、内戦の時のことを思い出していた。
―…1年前。
<降臨の野>でエリンとシュナンを助けたリランはそのまま、エクとアルが待つラザル保護場へと戻った。
エクたちがいる王獣舎の中へ入ると、リランはエリンとシュナンを床へそっと降ろし、エクとアルのほうへ近づいていった。
エクはエリンたちの体についた闘蛇の臭いに興奮し、しきりに翼を羽ばたかせる仕草をしたが、
リランが喉の奥でなだめるような音を出すと、次第に落ち着いていった。
その王獣の親子の姿をボーッと見ていると、
飛んでくるリランの姿を見た教導師達がすぐさま駆けつけ、エリンとシュナンは手当てを受けた。
その後ラザルで何日か傷を癒したシュナンはエリンやラザル保護場の人々に礼を言い、
多くの人たちに見送られて、迎えに来た馬車に乗って王宮へと戻っていった。
セィミヤからエリンに、カザルムへ戻ってよい、という手紙が届けられたのは、それから3日後のことだった。
その長い手紙の最初には、内戦の時のエリンの行動に対する、セィミヤからの礼と謝罪の言葉が綴られていた。
そしてその手紙には、セィミヤとシュナンを救った褒美として、
エリンとリラン親子をこの先自由とし、探したり、無理に接触することはしない、という約束が書かれていた。
エリンは最初、これを見て目を疑った。
セィミヤは、王獣を使えるエリンは最高の戦力になる事を承知の上で、エリンとリラン達を自由にしたのだった。
(―…でも)
いくらセィミヤが約束したとしても、それが永遠に続く事は無理かもしれない。
リョザ神王国は一見平和な国だが、その平和は大公領で今も続く争いで支えられているのだ。
敵国は、どうにかしてリョザ神王国に勝ち、領土にしようと、その方法を考え続けている事だろう。
リョザ神王国の戦力となりうるエリンやリランのことが敵国に知れたら、リョザ神王国の力とならぬよう、
捕まえられ閉じ込められて、利用されるか、殺されるか、どちらかだろう。
そんなことは、たとえ死んでも嫌だった。
しかし、何時かはそうなる日が来てしまうかもしれない。
このままカザルムにいれば、ここの人にも危害が及ぶこともあり得る。
(…エサル師やここの人には、迷惑をかけたくはない。)
エリンは最近、1つの可能性を探っていた。
あの、ジョウンと暮らした小屋で、リラン親子と共に静かに暮らすのだ。
(それにあそこなら、人目につきにくいし…)
エリンは内戦から1年たった今でも、あまり人に自分の姿を見られたくなかった。
<降臨の野>での出来事は公表しないとセィミヤから伝えられてはいたが、それでもエリンは自分のしたことを後ろめたく思っていた。
セィミヤから届いた手紙によれば、セィミヤはエリンと王獣がカザルム保護場の外へ自由に出れるよう、様々な所へ連絡を取ったらしかった。
そのおかげで今エリンは、山の中等の人目につかない場所で、音無し笛を身に着けた状態であれば自由に王獣を飛ばしていいことになっている。
普通ならそんな事は許されない。人々に危険が及ぶ可能性があるからだ。
そんなところでエリンは、セィミヤ様はやはり真王なのだ、と実感する時があった。
とにかく今の状態ならば、リラン達を山へと移す許可が出るだろう。
(―……でも…。)
山に移れば、カザルムへはあまり来れなくなるだろう。
エリンはそのことが気がかりだった。
エリンは俯き、地面を見つめた。