Story
□木漏れ日の中で
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「本当に、今までありがとうございました」
エリンはそう言うと、深く頭を下げた。
それを見て、エサルを始めとしたカザルムの教導師達は、頷いた。
次にエリンは教導師達の横に控えめに立っている、以前の教え子達を見た。
エリンはラザル保護場から帰ってきてからは、1度も授業は行わなかった。
それでも『エリン師』と呼んでエリンを慕うこの教え子達に、エリンは何度も暖かい気持ちになった。
その教え子達とも、ここで一旦お別れなのだ。
「……皆、本当に今までありがとうね。」
エリンが呟くように言うと、学童達の中から、鼻を啜る声が聞こえてきた。
何人かの学童が泣いているのだ。
そして数人の初級の学童がエリンに抱きつき、声を上げて泣いた。
見ると、上級の学童の中にも、唇を噛み締めて、泣くのを堪えている学童が何人かいた。
「………ありがとう、」
エリンは涙で滲む視界で、学童達を抱きしめた。
エリンが荷馬車に乗り込むと、トムラがエリンに声をかけた。
「エリン、頑張れよ。」
「…はいっ!」
エリンが涙を流しながらも笑って答えると、トムラは笑って頷いた。
「あの、エリンを山まで、よろしくお願いします。」
トムラに声をかけられたイアルは、静かに頷いた。
やがて荷馬車が動き出して少しすると、エリンは膝に乗せた竪琴を握りながら、後ろを振り返った。
すると学童の中から、大きな声が聞こえてきた。
「…エリン師っ!またね…っ!!」
涙で濡れた顔で懸命に手を振る初級の学童を見て、エリンは大きく手を振った。
「…っ。また、ねっ!」
エリンは、エリンに向かって手を振る教導師と学童達、そして今まで数年を過ごしたカザルム保護場の姿を、必死に目に焼き付けた。
そして教導師と学童達が見えなくなるまで、手を振り続けたのだった。
(―…山での生活が落ち着いたら、必ず会いに来よう。必ず…。)
エリンは心の中で、そう誓った。