Story

□何時か願った温もりは
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―…トントン、

と、小屋の扉が軽く音を立てる。

「はい」

「わたしだ」

エリンが声を上げると、短い言葉が返ってくる。

「開いています。」

エリンがそう言うと、キィ、と小さく音がして、小屋の扉が開かれる。

「イアルさん、こんにちは。」

「ああ。」

エリンが笑って言うと、イアルも小さく微笑んだ。


あの日以来何度か、イアルは非番の日にこの小屋へ馬を走らせてやって来た。

そしてエリンと過ごし、翌日になると、次の非番の日を伝えて王都へと帰っていく。

エリンはその非番の日を楽しみに待って、またイアルを迎えるのだ。


エリンとイアルは、日の当たっている、草の生えた暖かい地面に腰を下ろした。

服越しに触れる柔らかい風が心地良い。


―…ロロン、ロン


聞きなれた王獣の甘えた声を聞き、エリンとイアルはそちらに顔を向けた。

リランとアルが顔を寄せ合って鳴いている。

さっきの甘えた声は、アルのものなのだろう。母親に甘えるアルは、本当に可愛らしかった。

リラン達の側には、それを見つめるエクもいる。

そこには、幸せな家族の姿があった。


エリンは柔らかい笑みを浮かべた。

「…泣いているのか?」

イアルにそう言われて初めて、エリンは自身が涙を流していることに気づいた。

慌ててエリンは俯き、涙を拭ったが、涙は溢れるばかりだ。

すると、イアルの指がエリンの目元に触れた。

エリンが顔を上げると、イアルと目が合った。


少し恥ずかしくなり、エリンはまた俯き、ゆっくりと口を開いた。

「……母と父のことを、考えていたのです。」

呟くようなエリンの言葉を聞き、イアルは何時かカザルム候の館でエリンに聞いた話を思い出した。


エリンの父は早くに亡くなり、母もエリンの目の前で闘蛇の裁きにかけられた。


その父と母との幸せな日々を、エリンが望んでいなかったはずが無い。

イアルは思わず、眉を下げた。

そして黙ったままエリンを抱き寄せ、エリンの背中に手を回した。

エリンは何も言わず、ただ涙を流していた。

エリンが泣き止むまで、イアルはそうしてエリンを抱きしめていた。
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