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□空を包む太陽の光
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「エリン」
イアルは彼女の名前を呼びながら、エリンを探してゆっくりと辺りを歩いていた。
朝、エリンがリラン達の世話をするために小屋を出て行ってから、結構時間が経っている。
もう昼餉時だというのに、エリンは未だに小屋に戻って来ていなかった。
イアルはさすがに気になり、箪笥を作っていた手を止めて外へ探しに出かけたのだった。
しかし、辺りを見渡してもエリンらしき人影は無い。
イアルの額に、うっすらと冷や汗が浮かんだ。
(―…まさか。)
何者かに連れ去られたのだろうか。王宮の者?賊?
嫌な考えが頭に浮かぶ。
しかしそれをイアルは小さく頭を振って消し、再びゆっくりと歩みを進める。
ここにはリラン達王獣がいる。もし何者かがエリンを連れ去ったのなら、何らかの威嚇音を発していたはずだ。
その類の音は聞こえてこなかった。
ならば、連れ去られた可能性は少ないだろう。
ふと、イアルは立ち止まり、ある一点を静かに見据えた。
イアルが見据える先には、草の上で丸まって陽を浴びているリランがいた。
そのリランの翼に、人のようなものが寄りかかっていた。
それがエリンだと分かると、イアルは小さく安堵と呆れの混じったため息を漏らした。
(―…エリン。)
リランの翼に寄りかかっているエリンは眠っているのか、動かない。
イアルはそちらに向かって歩みを進めた。
顔がはっきりと見えるくらいの距離まで近づき、立ち止まると、リランが薄目を開けて少し顔を動かし、イアルを見た。
イアルは背や額に冷や汗が流れるのを感じた。
元<堅き楯>だとはいえ、もし今王獣であるリランが襲い掛かってくれば、武器も何も持っていないイアルは歯も立たないだろう。
しかし、しばらくリランはイアルを見つめていたものの、襲い掛かることは無く、少しすると再び体を丸め、目を瞑った。
イアルは静かに、ふう、と息をついた。
エリンと共に暮らすようになってから、リラン達がイアルを警戒することは少なくなっていった。
今のように、じっとイアルを見て確認するような仕草をすることはあるものの、
最近ではイアルは、リラン達に警戒音を出されること無く、近づけるようになっていた。
「………。」
イアルはリランから目を離し、その翼に寄りかかるようにして目を瞑っているエリンを見た。
顔の約左半分を翼にうずめ、リランの頭とは反対を向いて眠っている。
エリンの細い肩が、静かに、ゆっくりと上下している。
時折吹く柔らかな風が、エリンの髪を揺らしていく。
イアルは慎重に、あまり足音を立てないようにしながらエリンに近づいていった。
今度はリランは目を開けることもなく、じっと眠っていた。
「……エリン…。」
イアルはエリンの前にしゃがみ、小さく呟くようにイアルはエリンの名を呼んだ。
しかしエリンが起きる様子は無い。
(―…疲れがでたのか。)
最近エリンは、日が昇ってから沈むまで、動いてばかりいる。
蜂飼いとリラン達の世話両方をこなすエリンには、エリン自身が気づかない間にも、疲労が溜まっていっていたのだろう。
イアルは出来るだけエリンの仕事を手伝うようにしていたが、エリンは遠慮してあまりイアルに手伝わせようとしなかった。
イアルの心に、小さな怒りが生まれた。
その怒りは、エリンにではなく、自身に対するものだった。
(…断られても、エリンを説得して、もっと手伝うようにすればよかったのだ。)
イアルは少し眉を顰めた。
そして、目の前の、眠っているエリンの横顔を見つめた。