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□ある日の心配事
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イアルは小屋の壁にもたれかかりながら、目の前の、机に向かって書物を読んでいるエリンを見つめていた。


今日は蜂達やリラン達の世話が早く終わり、二人はいつもより比較的速い時間に小屋に戻っていた。

そしてその後エリンは昼餉を作り、食べ終わってから、ずっとこうして書物を読んでいるのだ。


「エリン」


イアルは先程からこうして何度か声を掛けているが、エリンが気づく気配は無い。


イアルは、小屋の中が冷えてきたから火鉢の方へ移動したらどうかと、エリンに伝えようとしていた。


しかし、何度声をかけても、エリンは依然机に向かって書物を読み進めている。


(―…すごい集中力だな。)


そうイアルは思うと、静かに壁から離れ、エリンの横を通って寝室へ向かった。


寝室の扉を開け、自身の寝台の上にあった毛布を一枚取ると、それを持ってエリンの傍へ戻った。


イアルがエリンの後ろまで来ても、エリンが気がつく様子は無い。

イアルは静かに毛布をエリンの肩にかけると、書物に目を走らせているエリンを見つめた。


「……イアルさん?」

やっとイアルの存在に気づいたかのように、エリンは振り返ってイアルを見ると眉を上げ、小さく声を上げた。

そして自身の肩にかけられた毛布に気づくと、不思議そうにイアルを見た。

イアルは微かに眉を上げ、口を開いた。


「…小屋の中が冷えてきたから、体が冷えてはいけないと思ってな。

……凄く集中していたな。」


エリンはあっと声を上げ、申し訳なさそうにイアルを見た。

「ありがとうございます。」

そして書物に目を戻すと、再びイアルを見た。


「王獣などの獣について書かれている本なんです。生態の詳しい説明なども載っているので、面白くて、つい……」

それを聞くと、イアルは軽く肩を竦めた。


イアルは以前エリンに、同級生達から『王獣一直線』と言われたことがある、と聞いたことがあった。


まさにその通りだと、イアルは感じた。


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