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□静かな平穏
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「―…静かですね。」
エリンは不意にそう言うと、隣に腰掛けているイアルに目を向けた。
木陰に腰掛けているので、木の葉が揺れる音がよく聞こえてくる。
リラン達三頭が丸まっている様子も、ここからなら見回せた。
「…?」
イアルはエリンを見返し、微かに眉を顰めた。
確かにこの山はさほど人気は無く、都のような賑やかさは無い。
しかし、それは今始まった事ではなかった。
エリンの言った『静か』は何の事なのかと、イアルは頭を捻った。
「……この山に来てからは、静かでいられるんです。」
エリンはイアルを見つめたまま、微笑んだ。
イアルが黙ったままでいると、エリンは目を離し、所々に雲が散らばった空を見上げた。
「今までわたしは、どこにいても誰と居ても、何時も何かに追われているような感じがしていたんです。」
その言葉を聞き、イアルはじっとエリンを見つめた。
今隣にいるエリンが、とても儚い存在に思えた。
(―…言われてみれば)
自身もそのような感じがしていたな、とイアルは思った。
それは斬ってきた刺客であったり、<堅き楯>として真王を護らなければならないという責任であったりと、様々だった。
しかし日々の任務を果たさなければならないため、無意識にその影を追い払ってきたのだ。
「イアルさんと居ると、安心します。」
不意に振り向いたエリンにそう言われ、イアルは微かに目を見開いた。
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