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□幾多の星 唯一の月
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暗い夜空に、白い吐息が映えた。
エリンは寒さに震え、羽織っている外套を首元まで軽く引き上げた。
再び息を吐けば白く染まり、やがて静かに消える。
「エリン、大丈夫か?」
イアルが心配げに問うと、エリンは微笑んで頷いた。
「大丈夫です。
―…今夜は綺麗な夜空ですね。」
そう言うと、エリンは空を見上げた。
黒い空の上に様々な色の星が瞬いている。
星や月の輝きを妨げる雲は見当たらず、直接目に光が差し込んでくる。
鳥ももう眠りについてしまっているのか、鳴き声は聞こえてこない。
ふと、イアルは隣に座っているエリンを小さく横目で見た。
その夜空を輝く瞳で見つめているエリンの横顔を暫く見つめ、イアルは再び夜空を見上げた。
――…
どのくらいそうしていただろうか。
イアルは、傍らのエリンが小さく歌を口ずさんでいる事に気付いた。
優しく小さな歌が流れ、冷たい空気に溶けてゆく。
黙ってイアルが耳を傾けていると、不意に音が途切れた。
イアルはエリンをちらりと見、静かに問うた。
「…どうしたんだ?」
突然問われたエリンは、イアルを見るときょとんとした表情になり、小さく首を傾げた。
「何が、ですか?」
「今、歌を口ずさんでいただろう?
なぜ止めてしまったんだ?」
そう問われると、エリンは驚いたように眉を上げた。
恥ずかしいと思っているのか、エリンは自身の口元に片手をやった。
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