Short

□幾多の星 唯一の月
1ページ/3ページ



暗い夜空に、白い吐息が映えた。

エリンは寒さに震え、羽織っている外套を首元まで軽く引き上げた。

再び息を吐けば白く染まり、やがて静かに消える。


「エリン、大丈夫か?」

イアルが心配げに問うと、エリンは微笑んで頷いた。


「大丈夫です。

―…今夜は綺麗な夜空ですね。」


そう言うと、エリンは空を見上げた。


黒い空の上に様々な色の星が瞬いている。

星や月の輝きを妨げる雲は見当たらず、直接目に光が差し込んでくる。


鳥ももう眠りについてしまっているのか、鳴き声は聞こえてこない。


ふと、イアルは隣に座っているエリンを小さく横目で見た。

その夜空を輝く瞳で見つめているエリンの横顔を暫く見つめ、イアルは再び夜空を見上げた。


――…


どのくらいそうしていただろうか。

イアルは、傍らのエリンが小さく歌を口ずさんでいる事に気付いた。



優しく小さな歌が流れ、冷たい空気に溶けてゆく。


黙ってイアルが耳を傾けていると、不意に音が途切れた。

イアルはエリンをちらりと見、静かに問うた。


「…どうしたんだ?」

突然問われたエリンは、イアルを見るときょとんとした表情になり、小さく首を傾げた。


「何が、ですか?」

「今、歌を口ずさんでいただろう?

なぜ止めてしまったんだ?」


そう問われると、エリンは驚いたように眉を上げた。

恥ずかしいと思っているのか、エリンは自身の口元に片手をやった。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ