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□幾多の星 唯一の月
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「自分でも気が付きませんでした。

…すみません、うるさかったですか?」


そう不安げに言いながらエリンがイアルの顔を少し覗き込むようにして見つめると、イアルはその瞳を静かに見つめ返した。


「いや」

暗いのでよくは見えないが、イアルは小さく微笑んでいるように見えた。


イアルはエリンの瞳を見つめたまま、穏やかに言った。


「……先程の歌を、もう一度聞かせてはもらえないか?

貴女の歌が、聞きたいんだ。」


事も無げに言ってのけるイアルに、エリンはたじろいだ。


自身の歌が聞きたいと言われて顔に熱が集まるのを感じ、心の端でエリンは、夜でよかったと思った。

暗ければ、赤く染まっているであろう顔を見られなくてすむ。


実際は、イアルは<堅き楯>に属していた経験もあって夜目が効き、

難なくエリンの赤い顔を見つめていたのだが、エリンには知る由もなかった。



エリンは唇を小さく震わせ、やっとの事で言葉を紡いだ。


「はい…、でも、何を口ずさんでいたのか分からないんです。」

困ったように小さく眉を寄せて言うエリンを見つめながら、イアルは微かに頷いた。


「では、エリンの知っている歌を、聴かせてくれ。」


「…分かりました。」

エリンは静かに頷くと、イアルから目を離して目線だけで夜空を見上げた。

そして、先程のように小さく歌を口ずさみ始めた。


暫くエリンを見つめ、イアルも夜空に目を移した。

エリンの歌がゆっくりと染み渡り、辺りを包んでいるようだった。


二人の頭上を、輝く星が一つ、流れ落ちた。



  幾多の星 唯一の月
   (歌声はこの身体の中に染み込んでいく)


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