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□灯火は光の内に
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ある晴れた日の午後。
エリンは肩まで伸びた麦藁色の髪を後ろで束ね、物置を探っていた。
やがて棒のようなものを取り出すと、後ろにいたイアルに差し出した。
「ありました、お願いします」
「あぁ」
彼がそう言って箒を受け取ったのを見ると、エリンは再び物置に顔を戻し、その中を探った。
自身からイアルが離れる足音と、次いで隅のほうから箒で床を掃く音がした。
暫くして、埃っぽい物置から彼女はようやく、薄汚れた雑巾と箒、そして塵取りを引っ張り出した。
先程の箒とは違い、それらは大分埃を被って白くなっていた。
エリンは仕方なく、近くにあった戸口から外へ出て、その埃を払った。
瞬く間に白い塵が空に巻き上がり、彼女は思わず咳き込んだ。
埃が無くなり、綺麗になったことを確認してから、今度は小屋の脇にある水汲み場へ向かう。
ひとまず箒等を近くに置き、両手で縄を引っ張ると、透明な水が桶に入って上がってきた。
それを、あらかじめ用意しておいた大きめのたらいに移してから、縄を握っていた手を離す。
一瞬の後、ポチャン、と水と桶がぶつかる音が聞こえてきた。
エリンはたらいの中に雑巾を入れて濡らし、置いていた箒と塵取りも持ってから小屋へ戻っていった。
途中、ふと思い出して物置に引き返し、その横に放置されていたはたきを拾った。
雑巾と箒、塵取りにはたきを一度に抱えると、前が見にくくなってしまった。
それでもなんとか歩こうとすると、突然それらが持ち上げられた。
広くなった視界に大きく写ったのは、小さく溜め息をついたイアルだった。
「…幾らなんでも、これは危ないだろう。」
エリンは、イアルに視線で示されて初めて、イアルの後ろ、つまりは彼女が行こうとしていた方向には壁があったことを知った。
イアルが知らせてくれなければ、当然彼女はその壁に正面からぶつかっていただろう。
「―…ありがとうございました」
きまりが悪そうな笑みを浮かべると同時に、エリンは、彼に道具を持たせたままだということに気がついた。
慌ててエリンが受け取ろうとすると、イアルは静かに首を振ってそれを制した。
持って行こうとしていた所はどこか、と問われて、躊躇いながらも彼女は斜め前の窓際を指差した。
そちらを向いたイアルは間髪を入れずに歩き出し、驚いたエリンが後を追うと、その歩調を少し緩めた。
窓際につくと共に彼は道具を床に下ろし、振り返ってエリンを見た。
それに気付いたエリンが小さく頭を下げると、微かに苦笑して彼女から離れ、先程使っていた箒を取った。