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□未来への約束
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「―…いつかは、砂が全て落ちきるように、命も終わるんだな、と思うと、何だか不思議な気持ちになってきて……」

そこまで言うと、彼女は苦笑しながら、誤魔化すように、自身の目に少しかかっている前髪を横へどけた。

砂時計の砂は、既にすべて落ちきっていた。

「……すみません、上手く、…言えません」

その彼女の瞳が帯びている光を見て、イアルは微かに眉を顰めた。



―…そんな、悲しそうな顔をしないでくれ。

そう言いたかった。

しかし、それを言えば、彼女は眉を下げて、困ったように笑みを浮かべるだろう。

小さく、謝罪の言葉を呟いて。


「…砂時計を逆さにしたら再び砂が落ち始めるように、

死んだ後に、また生まれてくることって、本当にあるのでしょうか?」

顔を上げたエリンと、視線が交わる。

「もし、本当に生まれ変わりというのがあるなら、」

彼女の言葉を汲み取って、イアルが口を開いた。

「その時は、また出会うだろう。

―…出会うことが無くとも、会いに行く。」

「…わたしが、会いに行きます」

小さく首を振りながら、彼女が言った。

彼はそれを聞き、ふっと目を細めた。

「ならば、二人で探し合うことになるな」

そうですね、と、エリンは微笑んだ。


「……砂が落ちきるのはいつか、とは分からないが、その分、今を楽しめばいい」

彼はエリンから目線を逸らさず、静かに言った。

驚いたのか、彼女は微かに眉を上げた。

それから俯いて、小さく頷く。

沈黙が、暫く二人の間に流れた。

小屋の外から、リラン達の鳴き声が聞こえてきていた。


「そうだ、」

彼女は突然、何かを思い出したように顔を上げた。

それとほぼ同時に、椅子からがたっと立ち上がる。

先程とは反対に、今度はイアルが驚いた。

「すっかり忘れてました。

菓子を作ったんです。…イアルさん、食べますか?」

「…あ、ああ」

ぱたぱたと台所に歩いていく足音を聞きながら、彼は椅子に座った。


―…その分、今を楽しめばいい

あんな言葉が口から出るとは、彼自身さえ、思いもしなかった。

じっと目の前を見つめていた彼は、ふと、置かれたままになっている砂時計に目を留めた。

一瞬それを見つめた後、片手を伸ばす。


先程エリンがしていたように、砂時計を返して逆さにした。

途端、砂がさらさらと流れ始める。

硝子に封じられたその砂は、小さかったが、一つ一つの粒が輝いていた。



 未来への約束
  (長く、出来るだけ長く、傍に在りたい)


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