花鳥の如く
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「納得がいきません!きちんと説明して下さい!」
「今説明しただろう。これが全てだ」
「全て?婚約者の顔も何も知らず、どこぞの城の殿方と結婚しろと、ただそうおっしゃっただけではありませんか。父上は娘が顔さえ知らぬ殿方と結婚しても良いとおっしゃるんです?」
「そうは言っていない。…滝姫、父の気持ちもわかってくれ。これは政略結婚だが悪い話ではないのだ。向こうの城のご当主がお前の噂を聞き、いたく気に入ったらしく是非息子の嫁に迎えた暁には末永い交流と援助をして下さると申してきたのだよ」
「…だからってまだ見ぬ殿方と結婚、まして契りを交わすなど…」
「これは決定事項だ。お前に拒否権はない。だが聞いた話によると、若君はたいそう活発な方で何やら今は忍術学園とかいう忍になる者を育てている学園に身を寄せているらしいではないか。ご立派な事だ。時期ご当主になる方は戦も熟すとは」
「忍術学園…。そこに私(わたくし)の婚約者がいらっしゃるのですね?」
「うむ。お前も13の娘だ。そろそろ婚約者の一人いてもおかしくはあるまい」
「………」
「もう下がれ。時期に稽古の時間だろう」
「…はい」
「すまぬな、滝姫…」
「…失礼いたします」
パタンッ、
「フゥ…」
私は父上の部屋から出てすぐため息をついた
今だ気持ちはモヤモヤしたままだし勝手に婚約をさせられた事に対しては怒りさえ沸き起こる程だ
「全く、父上は勝手すぎる…」
いつもそうだ
何かにつけて過保護に、あれはダメ、これはやるな、それにしろ、とか
私を思って下さっているのは重々分かっているが、たまにそれが重荷になって辛い
姫とはいえ私だって一人でやれることはやりたいし、自分の身を守る事くらいはしたい
稽古事や勉学を学んでいるおかげで何にも優れているのは一番の私の自慢で
その中で特に抜きん出ているのが護身術程度で嗜んだ戦輪は先生をも驚かせる程の腕前だ
…まぁその分鍛練しすぎて手に傷をつけて周りに怒られたりもしたが
今では自在に操ることができる戦輪は私の心強い武器だった
懐に隠し持っている戦輪に手を当てる
(よし、ちゃんとある。また後で鍛練しなければな)
いつ如何なる時も命を狙う輩が来ても一人で対応出来る様に
私はそれを確認してから、自室へ戻る為踵を返した
多分今頃喜八郎が部屋で退屈しているかもしれない
綾部喜八郎
私の幼なじみで見習い忍者として幼少からこの城で共に育ってきた
何を考えているか分からない表情や人を殺める事に抵抗のない男で、なかなかに良い人材だと城のプロ忍達は一目置いているとか
今は私の護衛忍のような役割をしている
「今、戻った」
「おかえり、滝姫」
部屋に戻るとボンヤリ外を眺めていたらしい喜八郎が外からこちらに顔を向けて質素に言葉を返してきた
彼に多くの言葉を期待しても無駄だと知っている私は早々に部屋に入って傍に腰を下ろす
「何を見ていた?」
「空、見てた。今日は鳥がよく飛んでる」
喜八郎に釣られて私も空を仰ぐと確かに鳥が数羽気持ち良さそうに飛んでいた
羨ましい
あんなに自由に飛べたらどんなに素晴らしくてどんなに気持ち良いだろう
私には一生叶わない夢だ
「ねぇ、父上様に何か言われた?」
不意の問いに私はキョトンと喜八郎を見た
「何故だ?」
「腑に落ちない顔してる。もしかして前チラッと話してた婚約の事?」
「…あぁ。先方の城のご当主と話し合った結果向こうの若様との婚約が決まったらしい」
ふてぶてしく答えると喜八郎は頬杖をつきながら、へぇ…と退屈そうに相槌した
「その割に随分人事だね?滝姫自身の事なのに」
「今のとこ私の力では覆せないからな」
「じゃ、結婚しちゃうの?」
「まさか!何とかしてみせるさ。私とてただの守られてるだけの姫じゃない」
「そう。それが滝姫らしいよ。私だって幼なじみが嫌々知らない男のとこに嫁ぐのを黙って見過ごす程冷酷じゃないしね」
「是非父上に聞かせてやりたいよ、その言葉」
「で?これからどうするの?何かするつもりなら協力してあげるけど」
喜八郎が立ち上がりながら私を見下ろしてくる
実を言えば私は父上の部屋を出てからずっと考えていたことがあった
若様が忍術学園という場所にいる事
今分かっていることはこれだけだが、なかなかの情報だと思う
だから私はこれを有効活用することにした
そして暫しこの城から出ようと
「一つ提案があるのだ。喜八郎、聞いてくれるか?」
私は笑みを浮かべてそう切り出した
(私をただの姫だと思ったら大間違いだ!)
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