Beauty is eternal even if reborn.

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【The apple rabbit which you gave】







急だけど、恭弥が風邪を拗らせた


もう一度言う


恭弥が風邪を拗らせた


そのおかげで私まで病院に来て恭弥の世話をしなければならなくなった


微熱程度なのに草壁が必死に説得してきたのだ


最近の風邪は質が悪いんですから暫く安静にして下さい、とか何とか


あまりにも煩いもので恭弥も渋々一日だけ入院する事にしたのだ


入院なんて大袈裟、と思う奴もいるだろう


実際、恭弥も微熱程度だから泊まるのさえ嫌がったけど


ちょうど気分転換にいいかと水を入れた花瓶に花を生けて病室に戻る途中、


ナースが恭弥の病室から逃げる様にそそくさと出ていく所を目撃した


あんなに冷や汗をかいた顔で、何かあったのかと気にしながらも病室に入る


「恭弥、ちゃんと大人しくしていたか?」


中には病室を出た時と変わらず、ベッドに腰掛ける恭弥と足元で屍と化した患者達


更にいつの間にか、


「…どうしてお前がここにいる?」


「ちょっとドジって足を…」


そう、綱吉がいた


何故に綱吉?


同じ病院に入院していたなんて気付かなかった


足?と綱吉の顔から足元まで視線を向けると右足が包帯でグルグルと固定されていた


「怪我するなんて、また無茶でもしたのか?」


花を生けた花瓶をベッド脇の机に飾ると傍に用意してあった椅子に座って問い質す


すると綱吉は目を逸らして言葉を濁す


「えっと、色々あって…」


「何でもいいけど僕は今、退屈してるんだ」


中々口を開かない綱吉にどうでもいいと恭弥は本を閉じて言葉を被せた


退屈、という単語に私は反応する


「こら。ジッとしていろと何度言ったら分かるんだ」


「ただ寝ているだけなんてつまらないでしょ。ここは群れの巣窟なんだし、遊ぶくらいいいじゃない」


「あ、遊ぶって…」


綱吉はゴクリと生唾を飲み込んで床に伏して気絶している患者達を目に捉える


きっと内心では「なんで俺がこんな目に?!」と思ってるはず


とりあえず…うん、林檎でも剥くか


せっかく草壁から頂いた見舞い品だ


食べなきゃ、というか食べさせなきゃ勿体ない


しゅるしゅる、と器用にナイフを使いこなす私は綱吉の視線を感じた


「あの、今剥いてる林檎って…」


「ん?あぁ、食べるか?恭弥宛てだがどうせ全部食えやしないし、気にする事はない」


「僕の林檎だよ。許可くらいはとって欲しいんだけど?」


「許可したらいいのか?」


「さぁ?」


気紛れな返答に肩を竦めて林檎を切る手を動かす


すると恭弥が何かを思い付いたようで、笑みをうかべて綱吉に一つ提案をした


「そうだ。ねぇ、ゲームをしようか。相部屋になった人にはゲームに参加してもらってるんだよ」


それでこれか、と綱吉は緊張の色を濃くする


「ルールは簡単だ」


恭弥はトンファーを取り出してちらつかせる


「僕が寝ている間に物音をたてたら、咬み殺す」


「一方的〜?!ってか病院じゃありえない状況だー!!」


「でも、せっかくだから君にメリットもあげる」


「へ…?」


「僕が起きるまで無事に物音を立てずにいられたら…」


恭弥は私が剥いた林檎を手に取って一口、しゃくりと食べた


「褒美に滝姫が剥いた林檎を食べてもいいよ」


林檎ウサギをね、


「ってよく見たら滝姫さん、それやっぱり林檎ウサギ?!」


「そうだが?恭弥にはいつも林檎ウサギを剥いてやってるんだ」


そうしないと食べないから、


「あ、あの僕、もうすっかりよくなったんで…。林檎ウサギは食べたいけど、たっ…退院します!!」


すると院長が病室に入ってきて、


「駄目だよ、医師の許可がなくちゃ」


「?!!」


院長の登場に大袈裟なほど綱吉は驚いた


「やぁ、院長」


「え!!いんちょー?!」


そして院長は美しいとも言えるくらい90度頭を下げた


いい大人が中学生に頭を下げてペコペコするなんて見たくなかったな…


「こうして安心して病院を運営できるのも雲雀君のおかげ。生け贄でも何でもなんなりとお申し付け下さい」


綱吉もそんな院長の姿を見てショックを受けている


開いた口が塞がらないようだ


しかし恭弥だけは平常心は通常運転だ


あの会話の間に林檎ウサギを食べ終えて眠くなったようで、欠伸をしてベッドに横になる


「林檎ウサギも食べたし…じゃぁそろそろ寝るよ。因みに僕は葉が落ちる音でも目を覚ますから」


「なっ、」


うん、綱吉の気持ちは分かる


普通の人間は葉が落ちても気づかないし


寝ると言った恭弥に院長がキビキビとした動作で「では失礼します」と病室を出ていった


「えっ、うそ!!ゲームスタート?!」


院長を引き留められなかった綱吉は、どうしようと頭を抱えた


私は私で音を出しても恭弥は怒りはしないから、普通に座って面白いので綱吉を眺めている


…わけにもいかない


(そういえば隼人の見舞いにいかなければな)


何故か血塗れで倒れていた隼人をたまたま花瓶に花を生けに行く途中、見つけたのだ


とりあえず気を失ってるだけにしてもこのまま帰せないと入院する事になった


病室の番号も聞いていたし、恭弥も眠っていることだ


ちょうどいいから様子を見に行こうか


椅子から立ち上がった私に綱吉は何か言いたげな視線を向ける


表すなら「どこかに行くんですか?」だ


だから私も綱吉に「そうだ」と笑って頷いた


綱吉を一人置いていくのは忍びないが多分、大丈夫だろう


(多分、だけど)


あいつの周りは騒がしい人間ばかりだから


かと言ってじゃぁお前は常識的かと聞かれたら、頷くのも躊躇われるが


「滝姫さん?ま、まさか見舞いに来てくれたんですか?!」


「あぁ。隼人が血塗れで倒れていたのを見つけたのは私だからな。身体は大丈夫か?」


「はい!この通りピンピンしてますよっ!…いや、お恥ずかしい話、十代目が入院したと聞いて慌てて来たせいで何度か車とぶつかりまして」


でも俺生きてます!!と笑う隼人


お前、本当に人間か?と聞きたくなる


何度か車にぶつかれば天に召されちゃうだろう、普通は


綱吉の為にと言われたら友達思いのいい奴に聞こえなくもないが…


「全く…もう。お前はもう少し自分自身を大切にしたほうがいい。いつかその調子じゃ守れるものも守れなくなるぞ」


なんて説教じみた事を言いながら、恭弥の病室からコッソリ隼人の為にと持ってきた林檎をウサギの形に切っていく


隼人はその間、私の手先をずっと見ていて


「そっスよね…」と眉をハの字に下げて苦笑いを浮かべた


「わかっちゃいるんス。俺、駄目だなって。でもやっぱり守りたいモンの前だとつい頭に血ぃ上がっちゃって…」


面目ねぇ、と呟く声は心底自分の力不足などを痛感しながらどうすればいいのか迷い倦ねいているようで


正直、私には綱吉や恭弥や隼人達のように戦う術がないけど


これだけは言わせて欲しい


「焦る必要はないさ」


紡ぐ自身の声は思ったより包容を含んでいる


「そう…スか?」


「隼人は充分いつも頑張ってる。それは綱吉だって分かってるよ。生徒会室でよく話を聞くがお前の話をしている時の綱吉の顔、楽しそうだからな」


「…十代目が俺の話を」


それだけで嬉しげに笑う隼人は本当に綱吉を慕っているんだろう


だからこそ、


「お前が傷付く事で悲しむ人がいる事を忘れるなよ。隼人は少し無鉄砲な所があるからなぁ」


心配だよ、と苦笑して見事ウサギになった林檎を皿に乗せて隼人に差し出す


「ま、説教っぽくなったがお姉さんからのアドバイスだと思って気軽に受け取ってくれ」


綺麗なお姉さん、とまではあえて言わない


私だって空気くらい読める


するとキチンと真剣に聞いてくれたようで隼人は出会った時と変わらず爛々とした目で、尚且つ喜喜とした表情を浮かべていた


「俺、今猛烈に感動してます!叱られても仕方ないのに、そんな俺に優しくアドバイスを下さって!しかもこれ林檎ウサギですよね?俺初めてなんで尚更嬉しいッス!!」


「そうか?喜んでくれたならいいが…」


ただでさえ血を流し過ぎた後で興奮するのは返って危なくはないか?


今にも立ち上がりそうな隼人の勢いにチョップでもしたら冷静になるだろうかと考えていたら


ナースが一人の患者を連れて入ってきて、よく見たら綱吉だった…


(しかも怪我、さりげなく増えてないか?)


やっぱり綱吉を一人にするんじゃなかったと後悔した


隣のベッドに入った綱吉に気付いた隼人は先程の話もあってか「隣とは奇遇っスね、十代目!」と笑顔で話し掛けた


「本当に腐れ縁としか言えないくらいだな」


思わず私もそう言ってしまうくらい


「獄寺君!滝姫さん?ここにいたんですね」


「あぁ、隼人の見舞いにな」


「あの後、気を失いまして。滝姫さんが見つけてくれたんスけど、やっぱ俺も入院させられました!あ、十代目も滝姫さんが切ってくれた林檎ウサギ食べますか?」


驚く綱吉に林檎ウサギが並ぶ皿を綱吉にも見せる


「遠慮はしなくていいぞ。恭弥にゲームで負けても、あいつに見られなければ平気なんだから」


そうだ、後で恭弥の機嫌も伺いにいかなきゃ…


あまり放っておくと犠牲者が増えかねないからな


「あ、ありがとう…滝姫さん」


出会った頃より大分打ち解けた綱吉は少しだけ言葉を崩して、はにかんだ


病室のドアからこちらを覗いていたリボーンは何か言おうとして、だが止めた


ファミリーの今後について語ろうと提案する病人なのに元気な隼人とゲッソリする綱吉をただ黙って私の膝の上に静かに座って見守っていた









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