七松家の奥様

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【僕のお母さん】






ピンポーン


夕暮れ近くに僕がある一軒家のチャイムを鳴らすと、すぐに彼は出てきた


「はーい!…と、金吾じゃん。どした?」


「うん、これ。お母さんが作り過ぎちゃったから良かったらどうですか?って」


僕は出迎えてくれた同級生でクラスメートのきり丸に夕飯に作った肉じゃがの入った皿を差し出した


するときり丸は嬉しそうに目を輝かせて皿を大事そうに受け取った


「ラッキー!金吾ん家の母さん料理上手だもんな!」


俺、滝姫さんの料理好きだなぁ


「そ、そう?」


自分の事じゃないのに家族の事だからかな?


照れ臭くて、でもちょっと鼻が高いような不思議な気分


でもきり丸の場合よけいそう思うのかも


早くに両親を亡くした彼は親戚の土井半助先生(しかも僕らの学校の担任ね)に引き取られたから


だからお母さんの味もお父さんの背中も知らない


友達だから同情はしないし本人も気にしてない


それ所か、実は僕の家と土井家は斜め向かいのご近所同士だからこうして作った料理をお裾分けしたりたまに土井一家をうちに招待したりと家族ぐるみの付き合いもしてる


だからそんな心配もないんだ


…でもお母さんは僕のなんだからあげないからな!(一応ケンセイというものをしておく)


「今土井先生いないけど、うち上がるか?ちょうど金吾に見せたいもんがあるんだ」


「見せたいもの?」


「そうそう。別に明日でもいいけど、やっぱ同志としてはすぐ見せたいんだよ」


「んー…少しなら大丈夫だよ」


「よしっ、決まり!」


入れよ、と促されるまま僕はきり丸の部屋まで通された


「じゃーん!!」


「あっ!そ、それはっ!」


きり丸に見せられたのは今僕らの間で話題の「シノビマン」のトレーディングカード


しかも金色のレアもので中々当てるのは難しいやつだ(ついでにいうとカードはお菓子についてくるやつ)


僕は食い入るようにそのカードを見つめた


「いいなぁ…。しかもシノビレッドだっ」


「へへぇ、いいだろ?後レアはシノビグリーンと敵ボスのドクタケZとかあるらしいぜ」


「ドクタケZもあるのか?!僕中々当たらないんだよなぁ。まだ半分も集めてないし」


お母さんのお菓子のほうばかり食べてるから中々買えないんだ


肩を落とすときり丸は目を丸くした


「いいじゃん。滝姫さんの作るお菓子のほうが好きだって金吾前に言ってただろ?」


「そうなんだけどさ…」


「それなら、」


「おーい!きり丸っ!お前の部屋に金吾来てるかー?!」


お母さん迎えに来てるぞー!


いつのまにか帰ってきたのか土井先生に話の腰を折られて僕らは顔を見合わせた


「僕?…て、もうこんな時間だ!」


「いつのまにか話込んでたんだな」


時計を見たら7時を少し過ぎていた


きり丸の家に来たのは確か六時半くらいかな?


7時ならもうお父さん帰ってきてるよ…


僕らは慌てて一階に下りていった


玄関には帰ってきたばかりの土井先生とお母さんがいた


「いつもすまないな。さっそく今日きり丸と食べるよ。あ、皿は明日でも大丈夫か?」


「えぇ、大丈夫です。それよりお口に合うかどうか…」


僕らを待ってる間に会話に花が咲いている様子のお母さん達にきり丸と駆け寄った


「それなら心配いらないッスよ。滝姫さんの料理はいつも上手いから何も心配してないですから!」


良い笑顔で言うきり丸にお母さんは「それならいいんだが…」と安心した顔で笑った


土井先生ときり丸とお母さん


3人並んでも親子みたい


でもあいにくお母さんは僕のだし、土井先生もどちらかと言えばお兄さんに見える


だけどきり丸の瞳はどこか“お母さん”を求めているように見えて


取られる心配とか、そういう事は考えてないけど


やっぱり土井先生と一緒で寂しくないにしても、きり丸だってお母さんが恋しい時だってあるよな…


僕は3人の会話を聞きながらきり丸を盗み見みていた


「ではそろそろ帰りますね。家にいる2人も今頃お腹を空かせてますから」


「あぁ、引き留めてすまないな。近所だけど気を付けて帰るんだぞ。金吾もまた明日学校でな?」


「はいっ」


頷いた僕は靴を履いてお母さんと玄関を出ようとしたら不意にきり丸に呼び止められた


「なぁ、金吾!さっき話してたカードさ、よかったら2人で集めないか?1人より2人のほうが集まりやすいし楽しいだろ?」


「そうだな。確かに楽しそうだ。いいぞ」


言われた僕は快く頷いた


2人のほうが効率がいいし、お互いに見せ合いっこして集めたり後何が足りないとか模索したりするのは1人よりもっと面白そうだ


「よかったー。じゃ、詳しい話は明日学校行く時話そうぜ」


「あぁ、また明日な!土井先生も、お邪魔しました!」


「またな、金吾!滝姫さんも肉じゃがありがとうございますっ!」


「じゃぁな、金吾」


「お邪魔しました。きり丸もまたな?」


僕らは二度目の言葉を交わして家を出た


今日はお母さんと手を繋ぎたい気分になって何も言わず手を握るとお母さんも自然と手を握り返してくれた


きり丸にお母さんの手料理を褒められた時と似た擽ったさを感じて頬が弛む


「金吾はきり丸と仲が良いんだな」


「うんっ。あのね、シノビマンのトレーディングカード一緒に集めるって約束したんだ!今日きり丸が見せてくれたカードは金色のレアでね…」


一生懸命きり丸と話した事を話している時、お母さんはずっと優しい表情で聞いてくれていた


「そうか。じゃ、帰ったらお父さんに言ってごらん。きっと毎日買ってきてくれるぞ?」


クスクスと楽しそうに笑う姿


温かくて柔らかくて、いつも美味しいものを作ってくれる手


どれも僕の大好きなお母さんだけど、


きり丸にならたまには貸してあげてもいいかも


(貸すって言っても話す時とかくらいだけどな!)


でもたまに思う


僕って実は俗に言う“マザコン”なのかな?って(ここにきっとシロ兄ちゃん達がいたら2人共頷いてるはず…)


「毎日はちょっと…」


「ふふ、それはそうだ。カードは集まってもお菓子の処分には困るからな」


「それもあるけど、僕お母さんが作るお菓子のほうが好きだから」


面と向かって言うのはやっぱり照れるけど、でもお母さんの笑顔が見れたからいいや!


僕は浮かれた気持ちで辿り着いた家のドアを開けた














(心配したんだぞ、金吾!駄目だろ?あんまり遅くなったら!)
(ごめんなさい!)

心配しすぎなお父さんに熱い抱擁を受けた僕は、シノビマンのカード所の話ではなくなっていた…

(お母さん、助けてぇ)
(すまない、金吾。こればかりは…)
(そんなぁ…)
(がんばれ、金吾)
(シロ兄ちゃんまでっ)













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