◇小説◇
□Tears
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月の綺麗な夜。
けれど満月というわけではなく。
むしろ三日月に近い形の光が輝く、不思議な晩だった。
風呂から上がった一護が部屋に戻ると、ルキアがベッドに座り込んで窓の外を見ているのが目に入った。
…表情は、判らない。
背を向けた彼女は、一護の存在に気付いているだろうに。
「…ルキア?」
「………何だ」
少しの間を置いて、ルキアが答えた。
振り返る事は、ない。
相変わらず視線は窓の外。
何故か、その後ろ姿に一護は苛立つ。
自分を見ていない事に、なのか、他の理由なのか、それはよく解らなかったけれど。
「何、見てんだ」
知らず、語気が強くなる。
「…空、だ………今日は月が綺麗なのでな…」
自嘲するような口調で、ルキアは答える。
「…そーかよ」
そっけなく呟きながら、一護はベッドに腰掛ける。
ルキアは背を向けたまま、黙っていた。
二人はしばらく、背中合わせの格好で、妙な沈黙を共有する…。
――が、不意にルキアが口を開いた。
「一護」
小さな、声。
聞いてもらわなくても良かったかのような、呟き。