青学
□トレードマーク
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海堂の誘いは断れない。
いや、断る理由がない。
しかし今、俺は初めて海堂の誘いを断ろうとしている。
理由は簡単。
俺の不注意。
眼鏡を踏んでしまった。
いや、予備はある。
しかし今、学校へは持ってきていない。
コンタクトを使ってるヤツは別として、俺のように普段から眼鏡を掛けてるヤツが、更に眼鏡を持ち歩くワケがないだろう。
そんなワケで、俺は今、眼鏡を掛けていない。
俺から見る周囲の光景はモザイクの世界だ。
そんなモザイクのような視界でも、見えることは見えるから、歩行は苦ではない。
人物や細かい物が分からない。
少し離れると、もう誰だか分からない。
教師だと思って声を掛けたら手塚だった。
眼鏡が無いと不便だな…。
そんなワケで、俺は黙って自分の席に座っていたんだが、そこへ現れたのが海堂だ。
天使と書いて海堂だ。
「大丈夫スか?」
「ちょっと不便だけど、歩行は大丈夫」
海堂には、眼鏡が壊れた事を先ほど伝えた。
メールを送ろうと思ったんだが、相当顔を近づけないと画面の文字が見えないという事に気づいて、電話で伝えた。
海堂が俺の側に立ってるのに、顔が全く分からない。
これは一大事。
「あの…先輩」
「何だい?……あ、そこ座って構わないよ。もう帰ったから」
俺は、自分の前の席に座るよう促した。
遠慮がちに座った海堂は、再び話し始める。
「さっき、跡部さんから電話があって…」
「跡部が?」
「先輩の眼鏡、選びに行こうって言ってるんスけど……」
「…跡部に話したのか……」
「いや、話してないスよ」
「ああ、海堂の事じゃないよ」
そういえば…もう1人、話したヤツが居たな…。
「……もしかして先輩…」
「うん。たまたま昼休みに電話が来てね。その時に少し」
まぁ、跡部に知られたからといって、困る事は何も無いから構わないんだが。
「選びに行くって言っても、俺の眼鏡は高くつくからな…一旦家に戻らないと」
たかが眼鏡といっても、中学生の小遣いで買える物ではない。
まして俺の場合は尚更だ。
レンズの代金だけで万単位になる。
家族に話さなければならないだろう。
「跡部には俺から言っておくよ」
「それが…」
「…海堂?」
海堂の様子がおかしい。
「どうしたんだ?」
「跡部さん、こっちに向かってるんスよ…ι」
「……え?」
跡部の事だ、おそらく車だろう。
もしかしたら忍足もついて来るかもしれない。
「…今から電話しても…無理だろうな」
電話しても、もうすぐ着くとか何とか言って、素直に帰りはしないだろう。
「取り敢えず、跡部の気が済むまで付き合ってみようか」
「…良いんスか?」
「もう向かってるなら仕方ないだろう」
跡部の話し方はどうあれ、プレゼントしようという気持ちは嬉しい。
気持ちだけは素直に受け取りたい。
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