氷帝

□花火大会奮闘記
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灼熱地獄のような昼の暑さも、この時間になれば、いくらかマシになる。

今日は、景ちゃんとデート。
花火大会あんねん。
せやから景ちゃん誘ってん。

花火大会いうたら、カップルの定番イベントやん?
俺が、そんな有り難いイベント逃すワケないやん?
景ちゃんと一緒にエエ思い出作りたいやん?

花火大会の後は、ちゃんと景ちゃん送り届けて。
ホラ、シンデレラは12時までに家帰らんとアカンやん?
俺は紳士やから、ちゃんと12時までにお家帰すで?
(寄ってけ言われたら寄るけどな)





誘ったら、景ちゃん意外にスグOKしてな(幸)、ソッコーで迎え行ってん。
で、花火大会の会場に来てんけどな。



来たんやけどな…

人、凄いわ。
頭ばっかや。
地面が見えへん。

はぐれてまいそうや…。

ホンマは、はぐれんように手ぇ繋ぎたいトコやけど、景ちゃん嫌がりそうやから、楽しいデートのためにも我慢やで、俺。





「やっぱり混んでんな…」

「穴場、よぉ知らんねん。ちょお大変やけど、堪忍な?」


やっぱり景ちゃんには辛かったやろか、この人混み。


「別に。混むって分かってる上で来たからな」



ああ…
今日は景ちゃん穏やかさん。
景ちゃんもラブラブモードなんやろか?


よぉ見たら、いつもより可愛ぇような…。
いつもより可愛く見えるわ。
いつも以上に可愛く見えるわ。

今日は景ちゃんも俺に甘えてくれるやろか…。
さりげなく手ぇ触れさしてくるとか、人混み言い訳にしてくっついてきたりとか…。
…期待してエエんやろか…。



今日の景ちゃんは、花火大会を楽しみにしとるのか……時々空を見たりしとる。
可愛ぇなぁ…vV



この可愛ぇ姿、残しとかなアカンよな、やっぱり。
デートの記念になるし。

俺の『景ちゃんコレクション』も増えるし。


俺の携帯、景ちゃんの画像めっちゃあんねん。
(隠し撮りやけど)

自慢したい位あんねんで?

見せへんけどな。







俺は『景ちゃんコレクション』に新たな画像を加えようと、携帯をズボンのポケットから取り出して、カメラを起動させた。
そして、人混みにレンズを向けるフリして、コッソリ景ちゃんをフレームに入れる。

ああ…今日の景ちゃんの横顔、めっちゃ綺麗やわ…。
普段より2.5倍エエわ…。




バレへんように『この人混み撮っとこ』とか言うて、景ちゃんを撮る。

パシャッという乾いた音と共に、携帯は記念すべき1枚目を撮った。




『………』






それは

ちょうど俺と景ちゃんの間を横切ったヤツの横顔やった。

ちょうど景ちゃんの横顔にソイツの横顔が重なっとって、景ちゃんの『け』の字もないわ…。




お前いらんねん。
お前の横顔いらんねん。
何でまた俺らの間を横切っとんねんボケ。




「ああ…取り直しや…」


再びレンズを景ちゃんに向けて、シャッターを切る。




「Σ(○-○;)ああっ!」


今度は、俺の背中に誰かがぶつかって、ブレてもーた。

景ちゃん流れとるし。
景ちゃん高速移動しとるし。
心霊写真みたいになっとるし。


「忍足。お前、この人混みで上手く撮れるとでも思ってんのかよ?」

「撮れる。撮らなアカンねん」


俺の『景ちゃんコレクション』増やすためにも、ここは撮らなアカンねん。
ファイト一発や侑士。




その後、数回チャレンジしたけど、前を横切られたり、ぶつかったりで……1枚も撮れてへん。


「ああもう…」


徐々にイライラしてくる俺と、さすがに不審に思い始める景ちゃん。


「…お前、ホントに人混み撮ってんのか?」

「撮ってるで?1枚も成功してへんけどな」

「ただの人混みに、そこまでこだわる必要ねえだろうが」

「ブレたらアカンねん。心霊写真みたいになっとる景ちゃんを待ち受けにすんのはゴメンや」




携帯を両手でシッカリ持って、レンズを景ちゃんに向けたまま、うっかり本音…言うてもーた…。




「へぇ…」

「あ、いや…これはな景ちゃん…」

「俺様を隠し撮りして、どうする気だ?アン?」






ああ…景ちゃんの視線、冷たいわ…。











──結果。





景ちゃんは花火大会の間、俺と1回も口聞いてくれへんかった…。






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