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□Rose of blood and contract@
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はあはあと荒れているのに関わらず、その早い吐息は小さく潜んでいた。
暗闇の中、その闇を透かす特殊な瞳でじっと遠くの街灯を探す。
しかしすでに、細めた総司の双眸はそれを見つけていた。
ゆっくり、傷を負った華奢な体は動き出す。
「…っ……、あと…もう少しだか…ら……」
灯りのある通りに出れば、人間がいるだろう。そうすれば、さっきハンターに刺された刃物傷もじきに塞がる。
苦しく喘ぐ体を無視し、アスファルトに血を滴らせながら、ふらつく足で地面を踏みしめた。
そう、人間の血さえあれば。
歪む視界を睨み、街灯の後ろの茂みに総司は腰を下ろす。
あと少し。
ここは団地で、地元の人間たちは良い『抜け道』としてこの団地の敷地を使っていた。
それは本来団地の住民以外には認められない行為だが、まあそれは暗黙の了解というところか。
「はや…く………」
負傷した所為か、一分一秒が長く思える。
灰か血か。
焦りがじわじわと、神経をすり減らした。

その時、待ちに待っていた足音が深夜の団地に響き出す。
待っていた、獲物。
その獲物はいかにも帰宅途中のサラリーマンか何かだ。
哀れだが、死ぬことはない。
この男に犠牲になって貰おう。
いくらか体格は良いが、今の状態では絶対的にこの男は抗えない。
「すみません…」
消えゆくような総司の声に、案の定その男は振り返った。
「…なんだ?」
「…すみません…お願いです……」







「血を…下さい」


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