ノベル

□ストックホルム症候群C
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被害者の事情聴取も順調に進み次の段取りをつけようとしたのもつかの間、
刑事課の少年監禁事件班に緊張が入る。
監禁事件も衝撃的だが、その真相のほうも十分に衝撃がある。
容疑者の山田宅から次々と新たな証拠品が押収されたのだ。

「んっ…や、やめ…ッあ!」
「大人しくしろ」
「いっ……嫌、あっ…、」
後からも聞こえる猥褻な音声は、テレビに映し出された映像から流れている。
映像の中の人物は被害者沖田総司と、容疑者の山田だ。
今朝、家宅捜索をしていた警官が見つけたもので、テープはダンボール十箱以上にも及ぶ。
おそらく監禁中の生活を撮ったもので、まだ検証し始めたばかりだが山田自身が取ったものだろう。
今見ているものだけでも、悲惨な光景が映し出されていた。
「これはキツイっすねー…」
「あと何百本とあるみたいだけど」
刑事たちは騒然としている。
「これはいつのだ?」
「事件発覚後すぐの、七月十二日ですね」
山崎がテープカバーのラベルを読みながら答えた。
「先輩…これ全部見るんすか?」
「一応な」
悲痛なため息とともに、その場に残された刑事たちはより複雑な表情になる。



*

*



「こんにちは、総司君」
精神療養病棟の沖田総司が収容されている個室のドアを滑らせ、山崎は陽気に挨拶した。
「…こんにちは」
相変わらず冷めたような瞳は、挨拶を交わしながらも土方を見上げている。
「早速ですけど、今日もいいですか?」
「……はい、」
「悪ぃな…」
土方と山崎は不意に顔を見合わせた。
少し前にあんな映像を見てしまったのだが、目の前の少年はそれを知らない。
裏切りなようで、少々気まずい。
「あの…二人にして頂けませんか」
土方が折りたたみ式の椅子を二つ用意していると、総司が静かに呟いた。
「…俺か?」
二人、という意味を確認するように問うと、こくりと頷く様が伺える。
総司は、山崎抜きで土方だけに話したいらしい。
「ということらしい。すまないが、外してくれるか?」
口唇を尖らせた山崎に、土方は口元が緩むのを抑えながら委託する。
「……分かりました」
「すまないな」
土方の言葉が聞こえたのかいないのか、
それをいい終わったころに丁度病室のドアが閉まる音が聞こえた。
余分になった椅子をしまい、土方はベッドに腰掛ける総司に向き合う。
「どうして俺なんだ?」
「何でだと思いますか?」
聞いたつもりが笑顔でさらりと返され、思わず失笑しそうになった。
さあな、と短い返事で答え、窓の外を見つめる。
外には芝生の上で患者同士かあるいは医者か、キャッチボールのようなものをしていた。
木々の動きから、風は少し吹いていると推測する。
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