読みモノ

三題噺
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フタツメ
蝶々、恐山、サーファー
 
 
ある夏の日の朝、恐山に一人の男訪れた。去年高波にさらわれて行方不明になってしまったサーファー仲間の心境が、どうしても知りたかったからだ。死者は二度と蘇る事が無いなんて事は無論承知してはいたが、せめて健やかに眠っているかどうかぐらいはどうしても知りたかった。
 
男が山を登って行くと、頂上まで続く道の半ば、どんよりと鎮座している年老いた巫女(いたこ)が何の前触れも無く、これはまたどんよりとした語り口で「とまれ、若いの」などと話しかけてきて、何故だか男の背中を悪寒が走り抜けた。だが、そんなことはお構いなしと言わんばかりに、巫女は話を続けた。
 
 
「お主は輪廻を信じておるかえ?そうか信じておらなんだか。まあよい。だが、心得ておけ。所詮は同じモノにしかなれはせぬ」
 
 
男は言葉を軽く受け流そうとしたが、山の頂の方からまるで斜面を滑り降りるかのように飛んできた蝶が、どうしてもサーファーに見えてしまった。
 
 


 
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