白石蔵ノ介小説企画『毒と薬。』
□君が僕を愛してた。
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「ばってん…そぎゃん白石のこと…好いとったと」
脳裏に何度も蘇る。
あの時に告げられた言葉、視線、空気、何もかも。
頭が痛くなるぐらい、あの時の千歳の声が鳴りやまない。
ずっと鳴り響く。まるで俺の頭の中を侵食していくように。
俺が別れを告げると、千歳は笑った。
無理に笑ってた。
そんなことすぐにわかった。
歪んだ笑顔を見せて、俺に言い放った言葉。
それが今でも俺の中に留まって、苦しめて、焼き付いて、離れて行ってくれない。
どうすればいい?
何をどうすればこの声は消えてくれるのだろう。
最初に好きになったのは俺の方だった。
転校してきた千歳。
少し遅れて入ってきたテニス部。
あっという間に他の奴らを追い越して、簡単にレギュラーの座を奪ってしまった。
あの自由奔放な性格のおかげか、恨まれるようなこともなかった。
上手く四天宝寺テニス部の中に溶け込んで行っているように見えた。
実際、仲良くなるのは早かったし、何の問題もなかった。
けれど……俺は違った。
そんな友情とか仲間とか軽い思いじゃなくて――好きだった。
気付いたら簡単に堕ちていた。
そして、後から聞いた話。
――この時既に、千歳は俺を愛してた。